それでも未来へ向かえ

 

 

 

 

 

腕が片方ない事に、今になって気が付いた。

 

多分、数時間前に斧で襲い掛かってきた男に奪われたんだろう。

 

利き手である左腕をなくすなんて、なんて不幸なんだろうかと

 

人は思うかも知れないが、俺には関係なかった。

 

たとえ腕がなくとも、生きる事に支障はない自信があった。

 

この場所でずっと生き抜いて来たのだから、普通の生活なんて

 

腕の一つでは変わらないだろう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

去年の秋、夏の大会が終わった後の事だった。

 

跡部景吾という、氷帝学園2年生のテニス部部長が、

 

俺を呼び出してきた。

 

アイツとは一回も対戦した事はなかったが、

 

ウチの部長をストレート負けさせるほどの実力は計り知れなかった。

 

 

 

「手塚国光、お前にコレを届けてやろうと思ってな」

 

 

 

跡部の手には俺のハンカチが握られていた。

 

多分、関東大会で氷帝学園と当たった時に落としたのだろう。

 

それを律儀に本人に返すとは裏に何かあるのだろうと思った。

 

 

 

「そうか、わざわざ悪かったな」

 

 

 

「いや、俺もお前に用があったんでな」

 

 

 

「ほう、早めに用件を頼むぞ。

 

昼休みはそんなに長くないんでな」

 

 

 

 

跡部にそう言うと跡部は笑いながら、俺に紙を手渡した。

 

その紙にはバトルロワイアル法と黒紙に赤文字で書かれた紙だった。

 

バトルロワイアルとはプログラム参加者に事前説明はしないはずだった。

 

それを何故、跡部が持っているのかと疑問に思った。

 

 

 

 

「・・・・俺はこのプログラムからは外されている。

 

プログラム開始日時は、来年の夏だ」

 

 

 

 

そう告げると跡部は足早に車に乗り込んだ。

 

俺はその紙を手にしたまま、暫く立ち尽くしていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

実行される日が来てしまった。

 

跡部が言っていた様に、跡部の姿はなかった。

 

俺に何故、こんな事を教えたのか定かではないが、

 

俺には何もかもが単純な事に思えてきていた。

 

 

 

【優勝者 手塚国光】

 

 

 

左腕がない感覚には慣れてきていた。

 

しかし、出血の量が半端ではなかった。

 

頭が重く感じて、俺の意識は遠のいていった。

 

 

 

帰った先で、跡部に会ったらこう言おう。

 

何故、俺にあんな事を教えたのかと。

 

未来には絶望を見てきた俺が生活しているのだろう。

 

でも、俺は前に進まなければいけないのだ。

 

 

 

「あぁ、今は夜だったな」

 

 

 

それが俺の最後の言葉だった。