冷たい雨

 

 

 

 

「雨、冷たいな・・・。なぁ岳人・・・。

 

朝はあんなに晴れとったのになぁ〜。

 

これで試合しとったら中止に成っとったなぁ〜。」

 

 

 

空は何かを悲しむかの様に雨が降らしている、まるで彼らの身を案じるかの様に。

 

 

 

「雨ってな、俺嫌いやねん・・・。

 

昔、迷子に成って公園の滑り台の下で雨宿りしとったんや・・・。

 

ゾウの形しとってな、ピンク色で中にトンネルがあって・・・。

 

むっちゃ怖かったわ、世界で一人ぼっちな気がして・・。」

 

 

 

 

忍足の淡々と語る口調は雨に同化している様に聞える。

 

元々低い声が更に低く成っている事も一つの原因だろう。

 

現在14時37分、この時刻には珍しい位に周辺は暗い。

 

闇の中とも言える中で忍足は淡々と話し続ける。

 

 

 

 

「一人ぼっちって寂しいんやで。

 

俺、姉貴がいるけど、物心付いた時にはもう結婚しとったし。

 

親父は何時も仕事で遅いし、母さんはいたけど話掛けずらかったわ。

 

母さんな、俺の本当の母親ちゃうねんな。

 

まぁ、最近知ったんやけど・・・・。」

 

 

 

雨が打ち付ける地面はコンクリートの上に少しだけ水嵩を作っている。

 

まるで瞳に涙を溜めている様に・・・。

 

 

 

「母さん、よそよししかったんや。

 

まさか子供の頃はそんな事知るよしもないやろ・・・。

 

授業参観とかは仕事休んで親父と母さんで来てくれたんやけど、

 

親父が休まれへん時は母さんは来てくれんかった・・・。

 

やっぱり俺の事、本当の子の様には思ってくれへんかったんかな?」

 

 

 

枯れて苦しそうな忍足の泣きそうな声は雨宿りしている2人以外に

 

聞いた者はいないが、でもその声は子供の様に悲しそうだった。

 

 

 

「雨で迷子に成った時に俺、家に電話しなかったんや。

 

家には母さん以外おらへん事知っとったし、

 

電話しても何話していいか分からんくて。

 

親父はその日夜勤で・・・俺怖かったんや、母さんに拒絶されるんが。

 

だから母さんの前では本音で話した事ないねん。」

 

 

 

忍足は立てた足に顔を埋めた。

 

まるで雨の中で凍える子猫の様に。

 

 

 

「でも母さんは俺の事探し周ってくれたんや。

 

俺がこんな風に顔を足に埋め取っても気付いてくれたんや。

 

傘も差さんと俺をびしょ濡れに成って探してくれたんよ。

 

うれしかったわ、母さんは俺の母さんやってやっと思えた気がしたんや。」

 

 

 

顔を上げてあどけない顔を見せる忍足は降り注ぐ雨を手で掬う。

 

 

 

「でも俺は雨が怖いんや。

 

親父が他にも愛人作って・・・その女も連れ込む様になって・・・。

 

母さんが出てったのも雨やったから・・・。

 

俺の母親はあの人しかいないのに・・・なのに・・・・なんで・・・・。

 

なんで父さんは俺の大切な者を奪うんや。」

 

 

 

雨は次第に強く成り始めた。

 

強い打音と共に飛沫か忍足の顔に掛かった。

 

 

 

「俺、母さんの事、東京出てきて探したんやで・・・。

 

でも探しても拒絶されるんやないかって不安なんや。

 

だって血の繋がりも無い俺なんて探されても迷惑なだけやろ。

 

で、俺は探せないまま3年生に成ってもうたわ。」

 

 

 

向日の顔にも水飛沫が飛んでいる。

 

まるで泣いている様にも見える。

 

 

 

「岳人寝てしもうたんか?

 

酷い奴やな、俺の話の最中に寝るなんて・・・。

 

でも東京出て来てよかったわ。

 

最高のパートナーに逢えたし・・・・・。

 

こんなゲームに巻き込まれてしもうたけどな・・・。」

 

 

 

何処か彼女に似ていた、無邪気に笑う姿とかな。

 

たまに俺にも見せてくれたんや、あの人。

 

ほんまは優しい人やて知っとったんや。

 

 

 

 

「ごめんな、岳人・・・。

 

俺って何にでも気付くの遅過ぎるんや・・・・。」

 

 

 

俺の手には岳人の首を絞めた時に出来た引っかき傷が残っていた。

 

 

 

「俺って一人が怖いからお前を殺してしまったんやね・・・。

 

あの人の様に側から離れるんが嫌で・・・。

 

許したってな・・・。」

 

 

 

雨で掻き消される音が少し戻った。

 

少しだけ雨が弱まったのだ。

 

 

 

「好きやで、岳人・・・。」

 

 

 

忍足は一度だけ向日に唇を落とした。

 

 

 

「岳人・・・・。」

 

 

 

忍足は自分の首にサバイバルナイフを突き立てた。

 

雨は二人を祝福する様に鳴り響く、まるで天使が歌っているかの様に。