理想と現実

 

 

 

 

 

 

手が痛い。

 

手が真っ赤に染まっていて痛いんだ。

 

 

 

「君が今大会の優勝者だ。」

 

 

 

その言葉と共に俺の記憶はフラッシュバックした。

 

 

 

 

「跡部景吾、キミが今回の優勝者だ・・・・。」

 

 

 

ナイフが手に在った。

 

手の中にナイフの刃が在った。

 

殺されたはずの俺が生きていて俺を殺したはずの手塚が死んでいる。

 

手塚の身体は半分に折れ曲がりまるで土下座をしているみたいだ。

 

どうして俺の前に何時も立ちはだかるお前が俺の前に倒れているのか。

 

疑問に思う暇もないうちに俺の瞳から生暖かい液体が溢れ出した。

 

 

 

「跡部景吾くん、君は政府に必要な人材だ。

 

殺すわけにはいかない。

 

彼もこれからの日本の為に死ねて本望だろう。」

 

 

 

俺は自力で生き残ったのではない。

 

誰かに生かされているんだ。

 

それ故に俺は政府には逆らえない。

 

手塚の命を犠牲にして俺は生きている。

 

今ここに手塚がいたら今の政府を正そうと努力するだろう。

 

正義感の強い奴だったからな。

 

生真面目な奴だから政府高官には向いていないだろうが。

 

 

 

「跡部さん、これ目を通しておいて下さい。

 

跡部さんの提案した新しいBR法のシステムに修正して欲しい箇所が

 

出来たそうです。

 

何でもこの方法だと生徒が生き残らない確立が高いとかで・・・。」

 

 

 

 

「そんな甘っちょろい奴はあのゲームに参加する意味はないだろう。

 

3日以内に全員を殺せない様な柔な奴はウチにはいらないからな。」

 

 

 

 

「ですが、それだと1年に3人くらいしか入ってきませんよ。

 

人材不足になってしまいますし・・・。」

 

 

 

 

「それなら一般から雑用係りを雇うまでだ。」

 

 

 

 

俺は俺みたいな人間を増やしたくないんだ。

 

生き残って苦しむ人間が増える事を俺は望まない。

 

死ぬ方がマシな事があるのは皆同じだ。

 

そして政府に監禁状態の俺が言える立場じゃないんだが・・・。

 

 

 

 

「・・・跡部さんは経験者なんですよね・・・。

 

私は一般なので何とも言えませんが、大切な仲間を殺すほどの精神力が

 

今の政府には必要なんですか?

 

しかも高官にそんな事・・・・。」

 

 

 

 

「必要だ。

 

この仕事は何人もの子供の命を奪うものだ。

 

心を失くす事の出来る人材が必要だ。

 

でも甘い考えの奴は直ぐに自殺するからな。

 

俺の提案した物をクリアできない奴は役に立たない。」

 

 

 

 

そうだ、これで誰もここに来なくて済むかもしれないだろう、手塚。

 

お前はラッキーだった、政府に殺されて・・・。

 

俺はアンラッキーだった、政府に生かされて・・・・。

 

俺の提案が受け入れられたら俺の様な人間は減っていく。

 

それが俺の生きてる意味だ。

 

 

 

 

「跡部さん、今回は優勝者が出ましたよ。

 

期待の新人ですよ、彼女は。」

 

 

 

 

俺の提案が受け入れられてから始めての優勝者が出た。

 

わずか13歳の女の子、死んだ目をした子だ。

 

死ぬのを恐れているのが手に取る様に分かった。

 

 

 

 

 

「・・・理想は崩れ去るものなんだな・・・・。」

 

 

 

 

 

「跡部さんの理想は現実に成ってるじゃないですか・・・。

 

彼女なら跡部さんの後も大丈夫ですね。」

 

 

 

 

理想は崩れてしまうものだ、何れまた崩れてしまうんだ・・・。