勝者の行方 Whereabouts of the victor

 

 

 

 

もしも、この殺し合いが始まる前に時間を戻せたら

 

僕はきっとその前に死んでしまうだろう。

 

 

 

「こんにちは・・・。」

 

 

 

僕に近所の人が挨拶してきた、僕はそれを普通に返す。

 

だって、そうしろって政府に教わったから。

 

そうやって自然に挨拶を返す事がどんなに苦痛か

 

それは僕にしか分からない。

 

 

 

「不二くん、ねぇここが分からないんだけど・・・。

 

教えてくれるかな?」

 

 

 

クラスの女子だ、彼女は僕が転校して来てから

 

毎日の様に話掛けてくる。

 

僕が一人で浮いているせいもある、

 

それに彼女はクラス委員でマジメだから。

 

 

 

「黒田さんの方が頭いいのに不思議な話だね。」

 

 

 

彼女は顔を赤くして怒った。

 

 

 

「私にだって分からない所があるの!」

 

 

 

人の上げ足を取るのは好きではないけど、

 

こう毎日だと取りたくもなる。

 

 

 

「不二くんだって、こないだのテストで

 

数学80点しかいかなかったじゃない。」

 

 

 

「そうだね、80点しかいかなかった。

 

元々得意じゃないんだよね、数学とか理数系。」

 

 

 

そう話すと彼女はうれしそうに言う。

 

 

 

「不二くんは古典が得意なんだよね。

 

だから私は古典を教わりにきたのよ。」

 

 

 

「そう、まぁいいけどね。」

 

 

 

こんな生活を送ってもあの日のことを毎晩思い出す。

 

夢はいつも白黒で、しかも血の色だけやけにリアルに写る。

 

僕は死んだ大切な人の血の臭いで目が覚める。

 

彼は苦しんで泣き叫んで僕を恨む様な顔で見つめていた。

 

 

 

『お前はぜったいに許さない、俺を殺そうとするなんて・・・。』

 

 

 

許してはくれないよね、僕の大切な人。

 

 

 

『不二くん、君が今回の優勝者な訳だが

 

君には家族と離れて生活してもらう事になる。

 

君の兄弟も参加していたから、身元が判明しやすいからね。

 

名前は変えなくてもいい、それがないと

 

君の生きる意味がなくなってしまうからね。』

 

 

 

僕の声、君に似てるかな。

 

いつもは君とは似てないと言われたけど今は似ているのかな。

 

いつも比べられて・・・いつも・・・いつも・・・

 

 

 

 

 

「不二周助、今日からここのクラスに転校してきた。

 

父親の転勤で名古屋から来たそうだ。仲良くやってくれ。」

 

 

 

 

不二周助、関東ではテニスをしている人は一度は聞いた事が

 

あるかもしてない名前。

 

天才不二周助、華麗な技を使う天才。

 

 

 

 

「始めまして、不二周助です。

 

前は名古屋の中学に通っていました。

 

ちなみに誕生日は12月29日です。

 

大阪にも一度だけ来た事はあるんですが、

 

まだ不慣れなので助けてくれたら幸いです。」

 

 

 

「出席を取るぞ。

 

今日は4月13日・・・。」

 

 

 

 

・・・あの日から8ヶ月・・・僕は必死で政府のプログラムを受けた。

 

早く外に出たかったし、早くテニスがしたかったから。

 

 

 

「おい、不二。

 

お前、テニスやったことあるか?」

 

 

 

座った席の隣の男子が話しかけてきた。

 

 

 

 

「あぁ、少しだけね。」

 

 

 

彼を殺してはいけないと何故気付かなかったのだろう。

 

僕なんかが残る必要なんてなかったんだ。

 

 

 

「うちのテニス部地区大会止まりでさぁ〜。

 

よかったらうちの部に入ってくれよ。」

 

 

 

こんな風にまた毎日が始まった。

 

僕のことみんな知らない、かつて天才と呼ばれた過去なんて誰も知らない。

 

 

 

 

「全国でも有名な不二周助に僕がしてあげる・・・。」

 

 

 

 

『不二裕太、お前の希望を聞こうか。

 

ここでのプログラムが済んだらどうしたい?』

 

 

 

『俺は兄貴に成りたい、兄貴に。』

 

 

 

僕は兄に成りたかったわけじゃない。

 

兄のテニスが好きだった、比べられ続けたけど

 

今と成っては比べられていた事自体おかしな話だ。

 

レベルが違いすぎて比べられる価値もなかった僕のテニス。

 

きっと兄弟でなかったら僕の名前さえ知らない人の方が多いはずだ。

 

 

 

 

『兄なってどうするんだい?』

 

 

 

 

『全国で不二周助の名前を知らしめたい。

 

兄貴は全国で、否世界で通用しないとおかしい選手だったんだ。

 

俺のせいで、俺が殺してしまったけど。

 

だから俺が不二周助の名前を世界に知らしめるんだ。』

 

 

 

 

それが僕の決意、僕の生きる意味。

 

兄のために・・・それが僕の原罪だ・・・。

 

不二裕太は殺されたんだ、あの時に殺された。

 

 

 

 

「不二くん、ここが分からないんだけど・・・。」

 

 

 

 

「あぁ、ここはね・・・。」