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ささやかな休息
「ごめんね、こんな目に合わせて。」
そっと誰かが囁いた。
きっと僕の知っている人なのかもしれない。
でも僕の瞳は血で濡れていて目の前が見えない。
暖かい手が髪に触れているのに、その手が誰のものなのかも分からない。
「ごめんね、私のせいだね。
大好きだったんだ、ずっと。」
聞き覚えのある声が聞える。
そうだ、竜崎の声だ。
でもなんで謝っているのだろう。
「さっきの爆撃で私達、死にそうになったの。
それでリョーマくんが庇ってくれてうれしかった。
リョーマくん、いつもは冷静だけど、あの時は違う人みたいだった。」
竜崎が泣いているのだろうか。
オデコに何粒かの生暖かい水が落ちてきた。
「でもその所為でリョーマくんの目が見えなくなっちゃった。
私の所為だ、私がちゃんと逃げられてたら・・・・
リョーマくん、目が見えなくなることなんてなかったのに。」
竜崎が泣いているのに俺は何も言えなかった。
今の状態が一番、幸せな時だとは分かっていたけれど。
「リョーマくん、水で顔を拭いてもいいかな?
血が着いたままだと余計に視界が悪いでしょ?
見えなくなったっていっても一時的なことだから
血を拭い取れば少しはマシになると思うの。」
竜崎が俺の側を離れたのだろう。
すこしだけ風を感じる。
室内であることは分かったけど、地図の中には
そんな建物は無かったと記憶していた。
「竜崎?」
「リョーマくん、私ね。
最後に言いたいことがあるの。
本当にありがとう・・・・。」
「竜崎?
どうしたんだよ、竜崎?」
その後から竜崎の声が聞えなくなってしまった。
俺に水で濡らしたハンカチを持たせてから、ほんの少しの間に。
「・・・竜崎・・・・。」
暫くして、外が明るくなり始めた。
目が見えるようになってきたのだろう。
竜崎のハンカチを目に当ててみた。
ピンク色のハンカチの真ん中が真っ赤に染まっていた。
「誰もいなくなったのか。」
木で出来た小さな小屋から覗く太陽に俺は何も考えられなかった。
そんな中、放送が始まった。
何もしないうちに6時になっていたのだろう。
『死亡者を発表する。
昨夜の12時頃に手榴弾で竜崎桜乃が死亡した。
今回はこの1人のみだ・・・・。』
俺は竜崎と一緒にいたはずだった。
何故、竜崎があの時間に死んでいたのか
俺には理解できなかった。
「ウソだ。
竜崎は俺にハンカチを渡した時は生きていた。
明るくなる前までいたんだから、3時30分まではいたはずなんだ。
死んでいるはずなんてない。」
俺は竜崎のハンカチを握り締めて泣いていた。
竜崎はあの手榴弾を投げつけられた時にはもう死んでいたのだろうか。
俺が庇っても竜崎は死んでしまったのだろうか。
「俺はまだ死ねない。
竜崎はまだ死んでいないんだ。」
俺は小さい小屋を出て昨日の場所に向かった。
そこには小さく丸まった竜崎が倒れていた。
何故、俺の側で俺を手当てしていたのに、こんな場所にいるのかと
問いかけたかった。
それに何で俺だけがあんな小屋にいたのかとも。
「ささやかに祈りたい。
竜崎は俺のこと守っていてくれたんだ。
ありがとう、竜崎。」
そして俺は戦場へと戻って行った。
竜崎の顔に俺の帽子を被せ、体に毛布をかけて。
ささやかな休息とささやかな祈りを君にと思って。 |