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ss.36 相対
去年の12月、手塚国光は全国大会男子テニス個人戦シングルスの部
で優勝を果たした。
立海大付属中学の幸村精一は体調を崩し、個人戦に出ていなかったとはいえ、
故障した腕で優勝できた事に、手塚自身も驚いていた。
1年から部長をしている、氷帝学園の跡部景吾も個人戦には参加していたが、
ベスト8で、手塚に当たる事もなく、立海大の真田に敗れた。
男子シングルスの試合では、選抜、夏の大会を含めて、ベストプレイと賞賛
されていたが、跡部も真田も満足できた試合ではなかった様だ。
「手塚国光か、全国大会に拘って、個人戦を自体しようとしていたとは
聞いていたが、結局、顧問の竜崎先生に止められて、参加したようだな」
榊太郎は跡部の監督として、ベンチから隣のコートで試合をしている手塚
を見つめていた。
手塚のテクニックは誰もが認めるほどの実力だった。
「うちの跡部と戦わせてみたい」
試合に集中している跡部には、もちろんその声は届いていなかったが、
跡部も1年の団体戦で当たった時に、手塚の実力は知っていた。
そして、この年の夏の団体戦で、青学の部長を破った跡部だったが、
手塚が跡部の前に試合をした、シングルス2の3年を破らなかったら、
試合を手塚に見せる機会もなかっただろう。
「・・・・強い奴が生き残る。
トーナメント戦だ、ミスは許されない」
手塚は自分の頭に、その言葉を繰り返した。
何度も何度も繰り返すうちに、試合が終わっていた事が多々あった。
「お前の目標は、個人戦で優勝じゃないだろ?」
「あぁ、俺の目標は青学を全国に導く事だ」
「・・・・お前は俺に、勝てるのか?」
「・・・・分からない」
目を開けると、黄色いボールが目の前を通り過ぎていった。
跡部との試合が最後の試合になるとは、手塚は予想していなかった。
3年間、ずっと夢に見ていた全国大会に行く為には、跡部を倒さなければ
ならなかった。
「・・・・跡部、俺はお前に負けるかも知れない」
「何故だ?
お前は全国で優勝してきた才能があるだろう」
試合は自分の中で、今までで一番の試合になった。
何時間もタイブレークを繰り返す事はもうないだろう・・・・。
そう手塚が思っていた時、いきなりサイレンが鳴り響いたのだ。
『放送を始める。
死亡者、跡部景吾』
放送の声で、手塚は自分が夢を見ていたのだと気付かされた。
BR法に巻き込まれた後、テニスラケットを握る事はなかったが、
手塚は、ラケットを握っていた。
それが血まみれである事意外は、普段のラケットと変わりなかった。
「・・・・跡部・・・・」
「俺が強いって事が証明できただろ?」
そう言っているかの様に、跡部は自分のカッターで首を切り裂いていた。
テニスボールが赤く染まって、重くなっていたが、それを持ち上げると
跡部の打っていた球の重さに似ていると思った。
「俺は試合に勝ったのか?」
手塚が呟くと、後ろから誰かに首を絞められていた。
跡部を殺した奴だと、感覚的に分かったが、
抵抗できなかった。
「すまないな、これも俺の為だ」
聞き覚えのある声に、手塚は抵抗を始めた。
ただの一度も対戦しなかった相手だったからだ。
「・・・・ゆき・・・・・むら・・・・」
その強さを持ちながら、手塚と一度も当たらなかった事が
不自然に思えたが、手塚は1年の時に個人戦には出ていなかった。
薄れていく意識の中で、手塚は幸村のハチマキを引っ張った。
それが解けると共に、手塚の意識はなくなっていた。
「戦いは終わらないんだ。
跡部と君は相対だったけど、俺は真田も柳とも、もちろん君たちとも相対では
なかった。
優勝は俺が貰うよ」
返事はできなかったが、手塚はそのまま、永遠に意識を手放した。 |