ss.30 メモ

 

 

 

 

 

 

親愛なる跡部さんへ。

 

跡部さんがこのメモを見ている時自分は、海の中にいるかも知れません。

 

死ぬ為にそういう事をする訳ではありません。

 

生き抜くためにやっているのです。

 

 

 

小さな椅子の上に大学ノートの切れ端が、石で抑えられていた。

 

几帳面な文字は樺地の物だろう。

 

でかい身体には似合わずに、小奇麗な字を書く。

 

 

 

残り時間は後3時間、それまでに一人になっていなければ

 

強制的に全員が死亡する事になっている。

 

残りの人間は、俺を含めて7人だ。

 

手塚と千石は確認できたが、後の5人は今までも一度も出会わなかった。

 

放送された死亡者をリストから消してなかった事を今になって後悔した。

 

手塚の武器はヤカンで千石の武器はテグスだった。

 

当たり武器ではないが、油断はできなかった。

 

 

 

「樺地・・・・そうか居なかったんだな」

 

 

 

ついクセで樺地を呼んでしまった。

 

この3日間の間、ずっと俺の後ろから付いて来ていたからか、

 

それとも元から、ずっと一緒にいたからか。

 

 

 

「・・・・他の全員はどこかに隠れているんだろうけど、

 

今から探して始末する訳にもいかないだろう」

 

 

 

時間がなかった。

 

わずか3時間で6人もの人間の命を奪うのは不可能だった。

 

武器も誰なのかも分かっていないという条件の中では。

 

それに樺地を殺す事は俺にはできないだろう。

 

俺が勝ち残る確率はゼロだ。

 

 

 

「跡部・・・・」

 

 

 

扉の開く音と共に、樺地の声ではない声が聞えてきた。

 

その声は聞き覚えのある声だった。

 

 

 

「・・・・手塚か」

 

 

 

「樺地は海で死んでいたぞ」

 

 

 

「だからどうした?」

 

 

 

「お前を最後まで心配していた。」

 

 

 

手塚の方を振り向くと、銃を手にした手塚が俺を撃った。

 

痛みはなかったが、血が一気になくなる感覚で目眩を起した。

 

倒れた時の痛みで、やっと自分が撃たれた痛みを実感した。

 

 

 

「・・・・手塚、樺地を殺したのか?」

 

 

 

「いや、アレは自害だったかな」

 

 

 

「・・・・樺地は俺を置いて死んだりはしない」

 

 

 

必死に手塚を睨むと、樺地が手塚の後ろにいるような気がした。

 

霞んで行く瞳で、確かに樺地を見つめていた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「跡部くん・・・・目を開けなさい」

 

 

 

知らない声で目を覚ますと、胸に痛みが走った。

 

病院なのだろう、薬品の臭いが鼻についた。

 

 

 

「君は半年も目をさまさなかったんだよ」

 

 

 

「・・・・半年・・・・樺地は」

 

 

 

俺にはそれ以外の心配はなかった。

 

 

 

「樺地くんを含めた全員があのプログラムで死亡したよ」

 

 

 

「・・・・嘘だ」

 

 

 

「君が生きているって事は全員が死んだということだ」

 

 

 

「でも俺は最後に樺地のことを・・・・」

 

 

 

空気を掴むと俺は体制を崩して、ベッドから落ちた。

 

涙で溢れる目は、あの時と同じ霞んだ視界を再現していた。

 

 

 

「そうだ、樺地・・・・。

 

俺は確かに戻ってきた樺地を見ていたんだ」

 

 

 

俺にとってそれは無意味な物だったが、今でも心の支えだ。

 

政府はプログラムの内容は一切教えることはない。

 

自分の目で見てこそのプログラムなのだ。

 

それでも俺の中には樺地が生きている。

 

遺留品のメモは紙くずの様に捨てられてしまったのかもしれない。

 

でも俺の記憶には残っている。