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疑心暗鬼
そこには男がいた。
そしてそこには女もいた。
そしてそこには一つの死体があった。
「・・・おはよう、お兄ちゃん。」
彼女は死体の頬に手を当てた。
「今日は私がご飯を作る当番ね。
でも先週もお兄ちゃんに変わってもらったから
2日も続けてやらないといけないんだけどね・・・。
お兄ちゃん優しいから1日だけでいいなんて言わないでよ。
私が後ろめたいじゃん・・・。」
一人の男がその姿を瞳に映していた。
何故二人がこんな状況なのか神尾アキラには理解出来なかった。
「・・・杏・・・ちゃ・・・ん??」
その声に橘杏は振り返った。
彼女は驚くどころか普通に彼に話しかけた。
「神尾くん・・・。
どうしたの、もう学校に行く時間かな?
でもお兄ちゃんも私もまだ着替えてないの・・・。
ごめんね、送れちゃうと悪いから先に行ってくれるかな?」
橘杏は何事もなかったように笑いながらそういった。
「杏ちゃん。
俺たちはもう学校に行く事もないんだよ。
もう死んでしまうんだから・・・。
誰一人いない世界に行くしかないんだから・・・・。」
「お兄ちゃん・・・。」
「橘さんはもう何も言わないし。
何も話さないし、俺たちを見てくれないんだ・・・・。」
私が殺したの・・・。
怖かったの・・・・。
お兄ちゃんに殺されるのが。
だって尊敬してたし、何よりも信頼していた兄なんですもの。
大好きなんだから、だから・・・・。
「杏ちゃん・・・・。
どうして殺したの、どうして殺したの・・・・。」
「私、お兄ちゃんなんて殺してない・・・。
本当よ、殺すわけないでしょう?
だって・・・・。」
尊敬する人と思いを寄せている人のそんな姿を見るのは辛い。
彼はそんな重いからその倉庫を離れた。
薄暗く、風の音の聞える場所。
そこには・・・・。
「アイツ、俺に気づかなかったな。
橘の事疑って行っちまったな・・・・。」
彼の勝ち誇った顔が杏の目から大量の水分を分泌させる。
「大好きなお兄ちゃんが殺されたのに
自分を守るためにこんな事言うなんてお前も最低な人間だな。」
彼女の涙は底に付いてからも枯れなかった。
「大好きな人を殺した相手でも私は何でも売るわ。
だって、私は・・・・。」
貴方を殺し、兄を家に帰すのが目的なんだから・・・。
私の最後は兄を家に届けてからよ・・・。
「私、死ぬのが怖いの。
ただそれだけ・・・。
それだけ、それだけ・・・・・。」
だから貴方に銃を向けているの。
背中を向けていて気付かないだろうけど・・・。
そこには男がいた。
そしてそこには女もいた。
そしてそこには一つの死体があった。
そしてそこにはもう一つの死体が出来た。
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