正当防衛

 

 

 

「チェックメイト」

 

 

 

リョーマと桜乃はたまたま入った家で

 

チェスを見つけた。

 

元々、この島に住んでいた人が置いていったのだろうと

 

思いながらリョーマは桜乃を誘った。

 

チェスは何度もアメリカに居た時に学校で遊んでいた。

 

チェスクラブの部長と対等にやりあえた時期もあったが

 

中学に入学してからはチェス駒すら見たことはなかった。

 

 

「リョーマくん、強いね。

 

私もおばあちゃんと結構チェスで遊んでたんだ」

 

 

「チェスって将棋みたいな物だから、

 

俺は将棋の方が好きなんだけどね」

 

 

淡々と駒を進めていくリョーマと桜乃。

 

もう20回はゲームをしている。

 

時間はもう3時間経過していた。

 

 

「この家の人って日本人ぽくない趣味ばっかりだね。

 

鎧とか、あそこにはダーツもあるし・・・。

 

全部・・・」

 

 

「そうかな?

 

こういうのって日本人の方が好みそうだけどね。

 

竜崎は和製のホラー映画とこういう洋館の出てくる

 

洋物のホラー、どっちが好き?

 

俺は断然、和製ホラーだけどね」

 

 

部屋は薄暗かった。

 

敵に見つからないために暖炉にも火を点けずに

 

部屋に常備してあった非常用のランプにも火を点けなかった。

 

その為に外の夕日だけがチェスをするために光になっていた。

 

 

「リョーマくん、もう夜になるんだからそう言う話は・・・。

 

私は洋物のホラーの方がマシだと思うけど」

 

 

「へぇ〜、竜崎は洋物の方が好きか。

 

ホラー以外の日本映画ってほとんど見たことないから

 

日本映画っていうとホラーなんだよね」

 

 

夕日が沈み始めて来るとリョーマの駒を進める手が止まった。

 

今の勝敗は30対40、リョーマが少しリードしている。

 

桜乃の駒は黒だった所為か、随分と見ずらくなって来ていた。

 

 

 

「竜崎、疲れた?」

 

 

 

「少しだけ・・・」

 

 

 

「そうだよね。

 

もう70回もやってるんだから・・・。

 

そろそろこの家を出ようか・・・

 

敵ももう遠くに行ったと思うし、夜もここで過ごせそうにないしね」

 

 

リョーマはチェス板の脇にある赤い絨毯の引かれた階段を見詰めた。

 

 

 

「この家、前に誰か殺されていたみたいだし」

 

 

 

「それって・・・」

 

 

 

「この階段の絨毯、少し黒ずんでるだろ?

 

誰かが上に居ても可笑しくない。

 

だって2つの血液があるだろ、新しいのと古いのと。

 

固まっている血液は多分・・・あそこにいる・・・」

 

 

 

 

リョーマが指差した階段の踊り場には青いジャージ姿の男が倒れていた。

 

それはリョーマたちの知っているジャージで

 

背中のロゴには真っ赤に染み込んだ血液が着いていた。

 

 

 

 

「・・・菊丸先輩?」

 

 

 

「多分、殺されたのはあの人だね。

 

それから殺した新しい血液の持ち主は、二階にいるはず・・・。

 

血の匂いが上からする・・・」

 

 

桜乃はチェス駒を落とした。

 

カタンという音で菊丸が声を上げた。

 

 

 

「オチビ・・・」

 

 

「菊丸先輩、生きてたんすね」

 

 

「まだ死ねなかったみたい」

 

 

「上にいる人は?」

 

 

 

「上にいるのは・・・」

 

 

 

 

菊丸の後ろから下を見詰める男がいた。

 

 

 

「大石先輩、やっぱりアンタだったんだ。

 

でもその傷は自分でやったものじゃないよね?

 

多分、菊丸先輩にやられた傷。

 

その切り口はナイフで右手で切られた傷なんだからね。

 

ちなみにナイフを支給されたのは左利きの俺と部長に

 

立海の仁王さん、右利きは菊丸先輩だけだからね」

 

 

 

 

「だから、どうしたんだ、越前。

 

俺は正当防衛をとっただけだ、悪くない」

 

 

 

 

「じゃあ何で、俺たちを殺さなかったんですか?

 

今でも俺たちを殺して、ここから出て行くことも可能だったはず。

 

それとも1人で逃げるのが怖かったんですか?」

 

 

 

 

菊丸は自分の武器のナイフを階段から落とした。

 

 

 

 

「逃げるためにナイフを・・・振り上げたんだ。

 

そしたら大石に当たっちゃって・・・血だらけになっちゃって

 

俺たち、殺し合っちゃった・・・」

 

 

 

 

桜乃は血のついたナイフを見詰めた。

 

明らかに固まった血液から大分時間がたっていることが分かる。

 

しかし、その上に新しい固まっていない血液が付いていた。

 

 

 

 

「・・・大石先輩を刺したのは菊丸さんが後なんじゃ・・・。

 

だって固まった血液の色、菊丸先輩の血の色じゃない。

 

それに・・・新しい血の色・・・菊丸先輩の・・・」

 

 

 

 

「正当防衛って菊丸先輩から刺してきた場合にのみ

 

そう言うんですよ、大石先輩。

 

もしも、菊丸先輩から攻撃してきたとしても

 

その眉の上の傷の上に擦り付いた菊丸先輩の血液が証拠になっちゃいますけど」

 

 

 

 

「菊丸先輩を殺したのは大石先輩。

 

その傷は後から菊丸先輩のナイフを奪って付けた傷」

 

 

 

 

「大石先輩、もしかして殺すのが怖いんですか?

 

俺たちは明日には死ぬんですよ。

 

人を殺さないかぎり、死ぬ運命なんです。

 

それなのに、正当防衛と偽装してまで人を殺したくないんですか?」

 

 

 

大石は大量に流れている血を見つめていた。

 

 

 

「先輩、俺たちはここから離れます。

 

多分、俺たちが何時間もここでチェスしていたことは

 

政府からもまる分かりでしょう、それに大石先輩に菊丸先輩も

 

ずっとここに居ましたよね。

 

もうすぐここは禁止区域になると思います。

 

戦う気があるのなら、ここから出て行けばいい・・・」

 

 

2人は2人を置いて家を出た。

 

大石は菊丸の身体を2階へと上がった。

 

 

 

 

「英二・・・・」

 

 

午後8時、爆発音と共に家は吹き飛んだ。