![]()
反逆の遺伝子
~The Prince of Tennis in Battle Royale~
BATTLE.58 中毒症状 Star Ocean.
|
「神様が造った星空と人の作った星空の違いなんて・・・分かりませんよね?
僕たちの目には、何も写っていなかったんですから・・・」
観月はじめは、声を潜めていた。
隣に座っている不二裕太と共に。
「クローンとして産まれて来た訳なんてない・・・。
たまたまなんですよ・・・たまたま・・・。
変かも知れませんが、私はこの世界が好きです。
悲しい戦争もありました・・・でも、この世界が好きなんです」
観月の声とは裏腹に裕太は溜息を吐けずにいた。
「裕太くんは、あの世界に帰りたいとは思いませんか?
不二くんがいなくなった今では、僕らの希望は薄い…。
また知らない所へと流されていく運命なんですよ。
副作用を抑える薬がなくなれば、僕も君も…」
「観月さんは、この世の全てが嘘偽りのない世界だって信じていましたか?」
「信じていましたよ。
戦争、日本がなくなった時、僕はすべてがなくなったと思いました。
これが現実で、強く生きていかなければならないと…」
観月は自分の手に握られた薬の瓶を見つめた。
「何の違和感もなしに、この世からいなくなるなんて、殺しあうよりも怖い
じゃないですか・・・。この薬に頼る以外に方法がない生活でも・・・」
「俺も怖いですよ。
いつか、この世から消えるなんて」
「残りも少ないんですから、不二くんが戻ってこなければ、
僕たちが消えるのも時間の問題ですね・・・。
悪魔の名前を持った人に助けられたのが、僕たちの運命を決めて
しまったのかもしれませんね」
★★★
「僕はこの世界が好きなんです。
外の平和な世界が現実だなんて思わないんです」
「でも、僕は外の世界に出たかった。
真実が知りたかった・・・。それがいけないことなのかな」
不二周助は淡々とブランコ強く漕ぎ始めた。
夕暮れの中で、思いっきりブランコを漕ぐのは何年ぶりだっただろう。
隣のブランコに座っている柳生比呂士も、少しだけ微笑んでみせた。
「いけないことなんて、この世にはないんだと思います。
不可能な事はたくさんありますが、できることなら・・・やっても、
いいんじゃないでしょうか・・・」
「だから、君はここに戻ってきたんだ?
自分の意思で・・・」
「・・・はい」
柳生の影が、ブランコの枠から出ると、不二は呟いた。
「・・・君と僕は何を望んでいたんだろうね」 どんどんと空が暗くなり始めると、柳生はブランコを漕ぎ始めた。
「こんなに綺麗な星も作り物だなんて、誰が信じるんでしょうか?」
「・・・僕以外の誰もが、本物だって信じていたよね」
不二が俯いている事を気にせず、柳生は呟いた。
「君にはまだ、やるべき事がたくさんあるはずです。
外の皆さんが、あなたの帰りを待っているはずですから・・・。
救世主として、反逆の遺伝子を持ったあなたを・・・ね」
不二はただ、目の前の柳生が羨ましくて仕方がなかった。
自分の意思で戻ってきた柳生と、無理矢理閉じ込められた自分では
あまりにも条件が違いすぎた。
「正直、君が羨ましいよ・・・。
どうして僕はこんな風に生まれてきたんだろう・・・」
星空が二人を包み込むと、不二は一粒の涙を流した。
「そんな事、誰にも分かりませんよ・・・。
僕たちがこの様な場所に監禁されて育った事なんて、なんの意味もない
ただの実験なんですから・・・」
不二周助は目を閉じて、笑った。
「意味なんてないか・・・。人は何で意味を欲しがるんだろうね・・・」
不二は立ち上がり、公園を後にした。
そして、一度外へと出た廃校へと向かった。
「逃げ出した兎を捕獲した。
僕は逃げ出した兎なんかじゃなく、逃げ切れなかった兎だね」
夕焼けだった空がすっかり真っ暗な星空に変わると、
不二は呟いた。
「これが夢の世界なら、僕はどんなに喜んでいるんだろうね」
不二の言葉は空へと吸い込まれていった。
「ここから出られる可能性はゼロではないんだ。
僕が見てきた世界、ここから出られれば、僕は彼らを救える」
ゆっくりと脱出した道のりを歩き始めると、船に乗った湖までやってきた。
★★★
観月はラベルの裏が見えるくらいに減った錠剤を見つめた。
裏には微かに黒いペンで書かれた文字が見えた。
「これは?」
「なんですか?」
瓶を傾けると、どこかで見覚えのある名前が出て来た。
それは悪魔の名前だった。
「・・・SEIRE」
裕太は瓶を手にすると、シールの裏に何か文字が書いてあるのを見つけた。
その文字とはSEIREという文字だった。
「アレ、見つけちゃったんだ?
それは副作用を抑える魔法の薬なんかじゃないんだよ・・・」
裕太と観月が振り返ると、背後には見慣れた男が立っていた。
土手の下からでは、男の顔は確認できないが、明らかに薄気味悪い表情
で二人を見下ろしていた。
「悪魔の薬を飲んでいたのは、君たちだったんだね。
計画は、すべて順調に進んでいるよ・・・。不二くん」
背後からした千石清純の声に二人は振り返った。
土手の上で月の光の逆行が、千石の表情を隠していた。 |