09.消

 

 

 

 

「宍戸さん」

 

 

滝萩之助は自分のクラスの女子が発した苗字に反応した。

 

“宍戸”とは最近デビューした人気のある男性アイドルだ。

 

自分の部活仲間の顔をふと思い浮かべた滝は、ジュースを買いに

 

下の購買部に向かった。

 

3時間目の休み時間は、購買部はしまっており、自販機だけが

 

音をたてている。

 

 

「跡部たちと監督が帰って来なかったら、全国大会は出場辞退だ。

 

特別枠は、別の学校に使われるのか」

 

 

氷帝学園のテニス部レギュラーが姿を消えたのは、全国出場を

 

決めた数日後の事だった。

 

行方不明になってから、2日が過ぎた今では、テニス部は滝が

 

仕切っている。

 

「・・・・全国大会へ、俺たち準レギュラーじゃ、一回戦敗退かも知れない」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「宍戸さん?」

 

 

真っ赤に染まった海の異変に気が付いたのは、鳳長太郎だった。

 

 

「・・・・宍戸!」

 

 

「宍戸さん、宍戸さん・・・・」

 

 

宍戸亮の姿を探したが、真っ赤に染まった海水以外は何も見当たらなかった。

 

船に掛けたロープのはしごに手を掛けると、跡部は船に登り、

 

上から、海を覗き込んだ。

 

 

「・・・・・宍戸!!」

 

 

「爆発したの?

 

何で、爆弾は外したはずなのに・・・・・」

 

 

「宍戸さん・・・・・」

 

 

芥川慈郎と鳳も船に乗り込むと、船はゆっくりと進み始めた。

 

海岸から離れていくうちに、芥川は船の床に倒れ込んだ。

 

 

「やっと、逃げられると思ったのに・・・・」

 

「ジロー」

 

「俺たちがいなくなった氷帝学園は、どうしてるんだろう?

 

もう、宍戸や忍足が帰ってこないって知ったら・・・・・」

 

 

芥川は目を伏せた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「・・・・あと3日で、大会が始まるけど、俺は大会を辞退したいと思っている。

 

跡部や皆のいない全国は、行く意味がないと思っている」

 

 

跡部景吾なしの大会では、全国は無理だと誰もが思っていた。

 

200人の部員を誇っていても、実力はベスト8止まりだった。

 

去年、一昨年と全国に出場した時から、跡部がシングルス1で

 

確実に決めていたからだ。

 

 

「それに、皆が見つからないうちに、大会とか出てる場合じゃないと思うんだ。

 

帰ってくるまで、待っていようと思う」

 

 

レギュラーのいなくなったコートでは、ボールの音一つしなかった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

「岳人?」

 

 

誰もいないレギュラー用のコートで、滝は気配を感じた。

 

確かに、向日岳人が後ろから、自分を呼んだ気がしたのだ。

 

 

「気のせいか・・・・」

 

 

滝はレギュラー用のコートを離れてから、一枚の葉がコートに落ちてきた。

 

落ちてきた葉は5枚だった。

 

 

◆◆◆

 

 

「跡部?」

 

 

「・・・・何だ?」

 

 

「もしも、帰れなかったら、オレ・・・・・」

 

 

銃声が聞えたのは、気の所為ではなかった。

 

 

「鳳・・・・」

 

 

「間違ってませんか、全て・・・・俺たちは悪くないのに、

 

宍戸さんは殺された・・・・何の罪もないのに」

 

 

跡部は銃を握っている鳳に、近付いた。

 

銃口を握ると、鳳はゆっくりと銃を放した。

 

 

「そうだな、でもな、鳳。

 

俺たちは帰って・・・・帰って・・・・・生き延びないといけないんだ。

 

アイツらが教えてくれた様にな」

 

 

「跡部さん、俺は跡部さんみたいに強くはない、帰っても

 

立ち直れないんだ・・・・・。

 

宍戸さんを殺したくなかったから、今までがんばって生きていました。

 

でも日吉と樺地が死んでから、ずっと・・・・・」

 

 

鳳が銃を完全に離すと、跡部は微笑んだ。

 

しかし、鳳のワルサーは跡部の手に渡って直ぐに、何故か暴発した。

 

船の一部は破損するくらいの爆破に、離れていた芥川だけが

 

無傷で済んだ。

 

 

「・・・・・嘘」

 

 

芥川はもう、涙も出なかった。