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07.呪
来週に全国大会の1回戦が迫っていた。
そんな時、氷帝学園のテニス部顧問の榊太郎が
「短期合宿をする」と突然言い出したのだ。
特別枠での出場に、胸を躍らせていたレギュラー陣たち
は、「そのぐらいはやって当然」と思っていた。
「俺は最後のプライドを掛けて、お前たちを殺してみせる。
例え、政府が俺達を捨石にしようと、な」
真っ黒な防具服で身を包んだ男は、非常階段の下で銃を構えていた。
政府の使っていたライフルである事は、跡部景吾にも分かったが、
その知識は何の役にも立たなかった。
「お前が、俺達を追い回していた男の仲間か」
跡部が、鋭い目付きで男を睨みつけると、
男はライフルの銃口を地面に向けた。
「あぁ、俺達はアイツの仲間だ。
いや、只、一緒に犠牲になっただけかも知れないが」
「窮地だから、一緒に行動するのか?」
「そうだ、政府に裏切られた所為で、誰も信じられない・・・・。
俺達は「落魄れた兵士」に変わりないんだよ」
男がライフルを構え直すと、跡部は瞬時に背中に差し込んでいた
CZ・M75を瞬時に構え、男の足を狙い、引き金を弾いた。
大きな銃声と共に、男が倒れる音がしたが、全員、それに構っている暇はなかった。
しかし、芥川慈郎は顔を歪めて、跡部の左腕にしがみ付いた。
「・・・・跡部・・・・。
オレ・・・・・死にたくない・・・・」
パニックに陥った芥川を引きずる様に、跡部は全力で男の脇を
通り過ぎた。
それに続いた全員も、男の表情を見ないように走った。
「・・・・俺達は生きる為に戦っているんだ。
例え呪われようとも、俺は構わない・・・・生きる事を望んでいるんだ」
「跡部、でも命は誰にも奪う権利はないでしょ?
だって、跡部だって殺されたら嫌でしょ?」
芥川の震えた声に、跡部は反応したが、それを構っている暇はなかった。
禁止区域が特定できていない事と、政府の施設敷地内に入る事を
危険か瞬間的に判断しなければならなかったからだ。
「・・・・人を殺さない事が必ずしも正しい事ではない」
忍足侑士はそう呟くと、俯き加減で足を走らせた。
◆◆◆
「来年のプログラム開催の場所は、合衆国から300キロ離れた
誰にも確認されていない無人島で行います。
そこからの脱出は、誰にも不可能です」
女がそう述べると、幾つ物机を並べて協議している政府上官達は眉をひそめた。
「君はあの島が、大正時代に作られた人工の島である事を知っているのか?」
「もちろんです、あの島のありとあらゆる物を調べました。
多少、人間の生活していた痕跡が残っていますが、
殺し合いをさせるなら、そのくらいの障害物は必要ですし。
あの島の再利用にも繋がりますよ」
女は自信ありげに、モニターにブロック別けをした島の地図を映し出した。
「昨日、施設を作り、禁止区域の設定をしてきました。
少人数制のプログラムにはぴったりの広さです。
そして実験的に、政府で不要になった人間を配置し、
禁止区域を囲むように埋めた地雷が爆発する仕組みを
試してきましたが、完璧ですよ。
禁止区域近くにいる人間も地雷の餌食になるのですから、
勝負も付け易くなりますしね」
「そうか、なら、今度のプログラムは君の担当にしよう。
プログラムの遅れを気にしていたのだが、君がいれば安心だな」
女は君の悪い微笑で、地図の映し出されたモニターを見つめた。
◆◆◆
「爆発はしないみたいだな」
「まさか、政府も自分達がいる場所には仕掛けんやろ」
忍足が壊されているパネルに気が付いた。
10分から30分の間で、ランダムに変わる禁止区域に
目が釘付けになった。
そして、地雷が爆発するのもランダムに、感知している首輪を
関係なく発動する事に気が付いた。
「・・・・殺しのプロだな」
向日岳人がそう発言すると、忍足も頷いた。
「プログラムっていうのは、本来、プログラム被験者が
お互いを殺し合う為のプログラムや。
それを政府の兵器が半数以上を殺したら意味ないがな」
「・・・・最初から、殺す目的で俺達を連れて来たんだと思いますよ。
殺さないと死ぬという恐怖で煽らず、プログラムを始めるのも遅かった。
もしかしたら、実験段階の島で、俺達は無駄死にをさせられているのかも
知れませんね」
鳳長太郎は、紙に書かれたプログラムの内容を見つめていた。
“重要機密”
その文字には、今回の実験の事が細かくしるされていた。
そして、4人の男の正体も。
「・・・・政府は何を考えているんや?」
「・・・・俺達に分かるはずないだろう」
宍戸は帽子を非常階段に落としてきていた為、
頭は短髪がむき出しになっていた。
「宍戸さん、もしも抜け出せたら、全国制覇しましょうね」
「あぁ、もちろんだ」
跡部が地下室から戻ってくると、セスナの部品だろうか、
小さな螺子を持っていた。
「・・・・跡部、脱出できそうか?」
「・・・・こんな新しい施設に、備えの飛行機なんてないか・・・・」
「じゃあ、無理なんですか?」
「簡単に言えばな。
俺が見つけられたのは、この螺子一本だけだ」
跡部が椅子に座り込むと、顔を俯けた。
絶望的と思えた脱出に、全員が顔を伏せた。
「やっぱり、海から抜け出すしかないんじゃないでしょうか?
海に彷徨っても、いつ爆発するか分からない島にいるよりはマシですよ」
鳳は割れたパネルに写る自分の顔にはっとした。
昨日から、緊張状態が続いている所為か、顔が老けて見えた。
「・・・・燃料なら、地下室にあった。
工具も多少はあった、あの炎上していた船を修理できれば・・・・」
「無理やろ、炎上した船に燃料タンクは残ってへんよ」
跡部が机を思いっきり叩きつけると、急にサイレンが鳴り響いた。
真っ赤なランプも施設内を照らしていた。
「・・・・なんや、コレ」
「禁止区域とは違う・・・・」
「地雷の装置が作動したんです、多分」
出口に向かおうと、全員が走り始めると、防火扉が
一斉に下り始めた。
厚い扉に閉じ込められたら、逃げ出す事は不可能だった。
「・・・・侑士!」
防災扉の隙間に転がり込むと、真っ暗な部屋へと辿り付いたが、
忍足だけが、扉の向こうに取り残されてしまった。
「岳人・・・・」
厚い扉に阻まれた所為で、声まで聞え辛くなっていた。
向日は扉に耳を当てて、必死に忍足の声を聞き取ろうとしていた。
「・・・・岳人・・・、離れたらあかん。
お前の首輪まで爆発・・・・してまうわ」
「分かった、侑士。
俺はここを離れないし、侑士が出て来れるまで・・・・待ってる」
跡部は懐中電灯で、向日の顔を照らした。
「この懐中電灯を持って待ってろ。
俺たちは、部屋の中で扉を破れそうな物を探してくる」
跡部はデイバッグを向日の周りに置き、真っ暗な部屋の奥を
懐中電灯で照らした。
「・・・・島から出る前に、ここから脱出しないといけなくなったな」
「はい・・・・」
鳳は自分が提案した、「政府の施設を調べる」という事を
深く後悔していた。
「侑士・・・・もしも扉が破れなくって、皆も外に出られなかったら、
俺、首輪を爆発させて、外に出してやりたいって思ってる。
もちろん、首輪だけの爆発じゃ防火扉は壊れないと思うけど・・・・」
「なら、大丈夫や。
樺地達が死んだ場所で、不発弾があったんや。
それが、俺のデイバッグの中に入ってる。
これで、施設ごとは無理でも、防火扉は破れるわ」
忍足はデイバッグから、地雷を取り出した。
「コレは禁止区域に入った時と、首輪を破壊した時に感知するんや。
さっき、机の上にあった企画書で分かったわ。
本当なら、ランダムで爆破してくれたらよかったんやけど、
施設の下には地雷は埋まってないみたいや」
「皆が帰ってきたら、反対される。
早めに、実行した方が・・・・・」
向日は防災扉に背中を預けた。
「そうやな、皆に体力使わせる訳にはいかへんからな」
「今なら、遠くの方に行ってる・・・・」
忍足は背中から、拳銃を出した。
「岳人、銃とデイバッグ、なるべく遠くに置いてきてくれへんかな。
アイツらの物、なくなったら困るやろ・・・・」
「・・・・本当は、侑士のバッグも届けてやりたいけど・・・・」
向日は自分の身に付けていた羽のペンダントと、忍足から以前借りていた
ブレスレットを外した。
ブレスレットは以前、借りパク同然で使用していたが、
向日はそうしていてよかったと思った。
忍足の遺品が残せたからだ。
「・・・・アイツらが全国制覇出来ることを願って・・・・・」
「脱出よりもそっちの願いが強いのか、相変わらずやな、岳人」
忍足は銃で首輪の金属部分を撃ち、首輪は外れたが、
同時に顔に銃弾が当たり、命を落とした。
銃声に驚いた向日が、扉を叩くと、返事はなかった。
「・・・・侑士?」
そして、向日の首輪から器械音が響き始めた。
「・・・・侑士、死んじゃったの?
俺、怖くないけど、ちょっと・・・・悲しい・・・
最後にラケット握れなかったし・・・・」
爆発音と爆風は、跡部達の元まで届いていた。
「・・・・忍足」
跡部の声も虚しく、防火扉と2人の存在はなかった。 |