03.死

 

 

 

鳳長太郎はワルサーPPK9ミリをゆっくりと木に向けて放った。

 

銃声は他のメンバーの元にも届いていた。

 

威嚇射撃の後の2発は、身体のどこかに掠ったのだろう。

 

地面に血溜まりが出来ていた。

 

 

 

「・・・・俺は容赦はしません。

 

貴方が何者か、分かるまでは・・・・」

 

 

 

真剣な目で敵を追う瞳は冷たさを感じさせた。

 

宍戸亮が鳳の後ろからブローイングハイパワー9ミリを構えて、

 

援護射撃の準備をしている。

 

敵も自分に部はないと思っているのだろう、木の陰から一歩も動かない。

 

 

 

「出て来た方が身の為ですよ。

 

貴方はここから逃げられないんですから」

 

 

 

鳳の挑発する声は高らかに響き渡った。

 

 

 

★★★

 

 

 

「銃声だな」

 

 

 

鳳達の比較的に近くにいた跡部景吾と芥川慈郎は銃声に耳を傾けた。

 

サイレンが鳴っていないうちの殺し合いは禁止されていて、それを破ったら

 

自動的に首に付けられた爆弾が爆発する仕組みになっている。

 

 

 

「まさか、誰かが殺した訳じゃないよね?」

 

 

「ただの試し撃ちだといいがな」

 

 

 

芥川は試し撃ちという言葉に反応した。

 

試し撃ちとはいえ、撃ったという事は殺す事を決めたという事だと

 

芥川には感じていた。

 

自分は銃すらも身につけていない、銃にすら触れられないからだ。

 

もしも仲間を殺したくないのなら、銃なんかとっくに捨てていると芥川は思った。

 

 

 

「こんな雨の中で。

 

まさか自殺なんて事はないだろうな・・・・。

 

自殺は仲間を殺す行為でもあるのだから」

 

 

 

「跡部、もしも誰かがオレたちを殺しに来たら、

 

跡部は殺すの?相手を」

 

 

 

「・・・・殺すことになるだろうな。

 

少なくとも、仲間を殺そうとする奴は生かしておけない。

 

逃げ出す足手まといにもなりかねないからな」

 

 

 

跡部は逃げ出す事を視野に入れて行動していた。

 

テニス部顧問の榊太郎が政府の人間になったと知った時は、榊への

 

復讐を考えていたが、今はいたって冷静にこの状況から抜け出すことを

 

考えていた。

 

 

 

「銃声は政府の人間の物かも知れない。

 

アイツらは撃ったとは限らない」

 

 

 

跡部は芥川にそう告げるとデイバッグの中から毛布を取り出した。

 

砂の落ちている床には寝られないと思い、テーブルの上に腰を掛けた。

 

CZ・M75とハイスタンダード22口径2連発デリンジャーを椅子に

 

退かしてから、毛布に包まり寝息をたて始めた。

 

 

 

「跡部、寝ちゃうの?」

 

 

「体力温存だ。

 

昨日は生徒会で遅かったんだ」

 

 

 

一向に止まない雨とサイレンの鳴らない環境で、跡部は眠る時間を

 

手に入れた。

 

体力には自信があったが、さすがに緊張状態の中での寝不足は辛かった。

 

芥川はそんな余裕を見せた跡部とは対照的に落ち着かない様子で外の雨の

 

動きに見入っていた。

 

 

 

★★★

 

 

 

忍足侑士と向日岳人は廃ビルの中に入っていた。

 

デパートだったのだろうか、日常品が淡々と並べられていた。

 

ベッドが展示されている付近を通りかかると向日はそこで立ち止まった。

 

 

 

「侑士、ここで休んでこうぜ。

 

中々、始まる様子もないしよ」

 

 

 

忍足はやれやれという表情を見せながら、ベッドに腰を掛けた。

 

ベッドに置いた手を見てみると、ホコリで黒く汚れていた。

 

 

 

「岳人、これで寝ると制服が汚れてまうで?

 

しかもさっき、雨に濡れている所為で、余計に汚くなるわ」

 

 

 

忠告も聞かずに向日はベッドに転がっていた。

 

疲れていたのだろう、数分で寝息をたて始めた。

 

忍足も少し休もうと横になると、いきなり銃声が鳴り響いた。

 

 

 

「何事や」

 

 

 

眠りに着いていた向日も銃声に驚いて身体を起した。

 

銃声は鳳と宍戸の向かった方向から聞こえてきた。

 

忍足は少し慌てながらも、その場から動かなかった。

 

 

 

「・・・・宍戸たちの向かった方だろ、アレ。

 

まさか・・・・」

 

 

 

向日も信じられない様子で、銃声の聞えた方を向いた。

 

廃ビルの中が静まりかえると2人は息を整えながら呟いた。

 

 

 

「殺されたりしてないよな」

 

 

「それなら、ええんやけどね」

 

 

 

★★★

 

 

 

銃声の音が鳴り響くと同時に日吉は、雨宿りをしていた木の下

 

から飛び出した。

 

大分落ち着いたとはいえ、雨はまだ強い方だった。

 

大粒の雨は日吉の制服を身体にぴったりと密着させていたが、

 

日吉にはそれを気にする余裕はなかった。

 

 

 

「・・・・先輩」

 

 

 

日吉は宍戸達の向かった方角を見つめて言った。

 

殺し合いの合図であるサイレンの音がならない所為か、落ち着いていた

 

日吉だったが、銃声で一気に息が荒くなった。

 

 

 

「宍戸先輩達の向かった方だ。

 

樺地、お前も一緒に・・・・」

 

 

 

走り出そうとしている日吉の手首を掴んで、樺地はそれを阻止した。

 

雨でずぶ濡れの2人だったが、何かが日吉を急がせていた。

 

 

 

「・・・・先輩たちの言う通りにしよう。

 

今、接触を持ったら・・・・首輪が爆発するかも知れない」

 

 

 

ゆっくりとしたペースの声は相変わらずだったが、樺地の言葉には

 

妙に説得力があった。

 

なるべく殺し合う時間を延ばす為に、島の四隅に逃げるという作戦を

 

校舎から出るまでに話し合った。

 

時間無制限と決められたBRでは、数日間の殺し合いがなくとも

 

参加者の接触がなければ首輪が爆発する事はない。

 

それを信じて8人はそれぞれ、島の端に向かったのだ。

 

 

 

「・・・・でも、樺地」

 

 

 

冷静さを失った日吉には、今の状況が分からなくなっていた。

 

初めて生で聞いた銃声の所為だろう。

 

樺地に手を引かれて木の下に戻ると、膝に顔を埋めて無言で泣いた。

 

恐怖が身体の中を駆け巡っているのが良く分かった。

 

 

 

「鳳が宍戸先輩を殺すはずはない。

 

でも、もしもの事があったら・・・・」

 

 

 

「宍戸さんも鳳くんも平気です。

 

アレは人が打たれた音じゃないです。

 

3発とも、何かに掠った音はしましたが」

 

 

 

樺地の言葉に日吉は声を枯らして答える。

 

 

 

「樺地、お前はそんな事まで分かるのか?

 

跡部さんがお前を側に置いておく理由が分かった気がしたぜ。

 

でも何で銃声の違いなんて分かるんだ?」

 

 

 

樺地は少し戸惑いながらも口を開いた。

 

 

 

「父は昔、この政府でBRの担当をしていた事がありました。

 

日吉くんにはボディーガードをしていると話ましたが、

 

政府の護衛をしていました。

 

今は跡部さんの家のボディーガードをしています。

 

父が政府を抜ける前、自分が幼い頃に訓練を受けた事がありました」

 

 

 

日吉は樺地の隣から聞える声に耳を傾けつつも、膝で目を伏せている。

 

雨に打たれる木の音が激しさを増してきた事で、樺地の声が小さく聞えている。

 

 

 

「父は政府の人間の子供はBRを受けずに済むと聞いていた。

 

しかし、父は自分に銃の扱い方などを徹底的に仕込みました。

 

多分、こんな日が来る事を予想していたんだと思います。

 

政府を裏切った人間の子供はBRから逃れられないと聞いていたのでしょう」

 

 

 

「・・・・銃に詳しい事は分かった。

 

でも、お前の親父は・・・・」

 

 

 

「父は政府から足を洗いましたが、自分の運命は変わりません。

 

この運命は父の所為でも誰の所為でもない、自分の運命です。

 

きっと跡部さんも、この状況下から逃げられると信じて行動してくれている

 

と思っています」

 

 

 

樺地は滅多に喋らないが、今は日吉よりも口数が多かった。

 

仲間と帰れる事を信じていると言うか樺地に日吉は言葉を返せなかった。

 

そして、誰も死んでいないという言葉に少し心が安らいだ。

 

 

 

「ここからは、逃げ出せないと思っていますか?」

 

 

「俺は誰かがいなくなるのが怖いだけだ」

 

 

「皆、それは同じです」

 

 

 

日吉若が最後の銃声を聞いたのは、この数分後だった。

 

 

 

★★★

 

 

 

「さぁ、何であんな所にいたのか、話してもらおうか」

 

 

「宍戸さん、俺たちは間違ったことはしていないはずですよね?」

 

 

 

木の陰から動けなくなっていた男を宍戸と鳳は、銃を頭に突きつけて

 

抵抗しない様にと少し移動していた。

 

男は見覚えのある顔をしていた。

 

 

 

「監督、俺たちはアンタを殺すかも知れない」

 

 

「・・・・構わない、私はもうあそこから逃れられないのだからな」

 

 

「自ら死を望むんですか?

 

監督らしくないですよ」

 

 

「私らしい事なんて何もない。

 

私はただの教師、お前たちには何もしてやれない」

 

 

 

両手を挙げた榊太郎は少し視線を下に向けて歩いていた。

 

雨で湿った草は高級そうな靴をドロで汚していく。

 

森の中では、どんな高価な物もただの物でしかないのだ。

 

 

 

「どうして俺たちを裏切ったんですか、監督」

 

「私には選ぶ権利は与えられなかった、ただソレだけだ。

 

何もかも、逆らえない運命だったんだ」

 

 

 

崖のような場所で榊は立ち止まった。

 

目の前のむき出しになった岩に触れた。

 

 

 

「ここから先は道具なしには上れないな」

 

 

 

上を見上げると不自然な崖のような気がした。

 

まるで人工的に作られたような不思議な造詣だった。

 

 

 

「・・・・雨が止んだら、殺し合いが始まるな。

 

それを私が見る事はないだろうが・・・・」

 

 

 

すると崖の上から、ライフルを向けている人影を宍戸が捕らえていた。

 

銃声が響き渡ると目の前の榊が血を吐いて倒れた。

 

上から頭を貫通した弾は土の中へと埋もれていた。

 

 

 

「・・・・榊くんが逃げ出したおかげで、ゲーム開始時刻が大幅に遅れてしまった。

 

君たちには彼を連れて来てくれた事を感謝するよ」

 

 

 

宍戸と鳳の額には雨とは違う液体が浮き出ていた。

 

目の前で人が死んだショックだろうか、2人の瞳孔は開いたままだった。

 

 

 

「・・・・すみません、一度だけでいいんで仲間を集めてくれませんか。

 

榊監督の事を皆で話したいんです・・・・」

 

 

 

鳳が冷めた声で呟くと政府の人間は軽く頷いた。

 

榊の死と行動が、仲間の命を救う手立てになるとは思えなかったが

 

鳳にはどうしても伝えなければいけない気がしていた。

 

それが例え、命が縮む行為でも今、しなければいけない事だと感じでいた。