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10.謎 「この船は、何処に行くんだろうね。
破損してるし、いつ沈んでもおかしくないね」
跡部景吾と鳳長太郎は、銃の暴発で、海に落ちた。
その時、船の一部に損傷をおい、海水が少し、床上に
浸水してきていた。
それでも芥川慈郎は、立ち上がる気になれなかった。
船は大分、沖に来ていたが、無事にどこかに辿り付けるという
保障はなかった。
「この船は・・・・・・みんなの希望だったのにな」
制服に染み込んでくる海水を、芥川は気にしていないのか
寝た状態で耳の下まで、来ている海水を手で拾い上げた。
「みんな、死んじゃった・・・・・・。
やっと帰れると思ったのに・・・・・・」
デイバッグは、重みがある為、流されなかったが、
緩く締めていたネクタイは、流されていった。
「・・・・・・みんな・・・・・・」
◆◆◆
「・・・・・・これから、選抜に向けてのレギュラー決めを行う」
滝萩之介は、レギュラーコートに、準レギュラーを集合させた。
夏の日差しが、眼に刺さるくらいの眩しさだったが、
準レギュラー陣は、淡々と準備を始めていた。
コートの隅に置いてあるボールがコートの中に転がっていくと
8つの葉の葉に向かっていた。
「・・・・・・桜の木は、遠くのはずだよ。
風に飛ばされてきたのかな?」
8つの葉を拾うと、滝はベンチの上に綺麗に並べた。
「跡部、忍足、岳人にジロー、日吉、樺地、鳳、宍戸・・・・・・。
綺麗に揃ってるな、この葉っぱ」
桜の葉に構う事もなく、滝は練習を開始した。
いつもなら、レギュラー陣が陣取っているレギュラーコートに
戻ってきたのは、何週間ぶりだっただろうか、レギュラー落ちしていた
自分がこんな形で戻ってくるなんてと滝は溜息を吐いた。
「今年の大会は、波乱がいっぱいだ」
特別枠から出場するはずだった氷帝学園は辞退を表明した。
その変わりに、聖ルドルフ学院が出場する事が決まった。
「・・・・・・これでよかったんだ」
「海の音が聞える・・・・・・」
「えっ?」
滝が後ろで、準備をしていた2年の声に反応した。
「いえ、気のせいみたいです・・・・・・」
滝も耳を澄ましてみた。
確かに、葉の擦れる音が、波の音に聞えなくはなかったが、
遠くから聞える桜の木の音が、ここまで聞えるとは思えなかった。
「・・・・・・ジロー」
滝のいるコートの反対側に、ずぶ濡れになっている芥川が立っていた。
ネットを挟んでいるが、確かに芥川の姿が、滝の眼には映っていた。
「・・・滝、オレ・・・死にたくない・・・・。
でも、死んじゃいたいって思うこともある。
でも、死ねないんだ・・・・・」
「ジロー、お前・・・・・・」
準レギュラーは誰一人、芥川に気付いている者はいなかった。
「みんな、死んじゃったんだけど、オレだけ生き残った。
でも・・・・・・」
「でも?」
「もうすぐ・・・・」
滝は、芥川がいなくなってから芥川のいたコートに向かったが、
水の跡も何の形跡も残ってなかった。
「ジロー、どこにいるんだ?」
◆◆◆
眼を閉じている芥川は、海に漂っていた。
完全に沈没した船は、もはや、海の藻屑だった。
周りには、比較的に軽いデイバッグだけが散乱していた。
「・・・死ねなかった」
服を着たままの為か、身体がひどく重く感じていた。
「滝・・・・・・」
周りに浮かんでいるデイバッグが1つずつ沈んでいくと、
芥川の身体も沈み始めていた。
向日岳人の羽のペンダントは、紐だけが涼んでいた。
「・・・・・・・・・」
『身体から力が抜けた。
何も考えられなかった。
でも、最後に見た滝は、オレの話を聞いてくれた。
身体が痛くて動けないけど・・・・・・やっと帰れた気がした』
手だけが、水上に出ている状態で、芥川は思った。
『ごめんね、みんな。
帰れなかった・・・・・みたい・・・・・・』
完全に沈んでしまってから、眼を開けてみると、
澄んだ水の下には、沈没した船が石にぶつかっていた。
『・・・・・・』
「ジロー?」
その言葉は、耳鳴りの所為で聞えたんだと思った。
耳鳴りで、幻聴が聞え易くなっているんだと眼を閉じた。
「・・・・・・帰ってこい」
『ありがとう、滝』
口に含んでいた空気が一気に溢れた。
◆◆◆
8月29日、無事に夏の大会が終わった。
優勝は、立海大だった。
関東大会1回戦で当たった青学も、準優勝を決めた。
それでも、8人は帰って来なかった。
そして、榊監督も。
この9人は、半年後に葬儀を行うと、ある先生が言っていた。
帰ってくる見込みがなくなり、捜査も行き詰ってしまったからだ。
死んでいないと信じている遺族には、残酷だが、それしかなかった。 「・・・・・・滝くん、跡部くんの遺族の方って、跡部くんの死を認められるのかしら?」
この女の先生が、葬儀は学校全体で行う事を決めた。
吹奏楽部の顧問をしている先生らしいが、俺はこの人を知らなかった。
「無理かも知れません跡継ぎは跡部しかいませんから・・・・・・」
「そう・・・・。
大会は残念だったわね」
女が滝の側を離れると、女のいた場所に葉が落ちていた。
裏には、真っ赤な文字で、【BR法企画部】と書かれていた。
「・・・・・・」
滝の手にした瞬間、窓から風が吹いて、外に飛び出していった。
「・・・殺されたんだ・・・・・・・・」
滝の言葉は、誰にも聞えなかった。
そして、数日たった後に、その葉はちゃんと女の下に戻っていた。
「ジロー、お前はそれを伝えたかったんだな・・・・・・」
政府に逆らうのを恐れたのか、証拠となる葉を元に戻したのは、
芥川の仕業だと思った。
「・・・・・・俺の中で、大切にしまっておくよ」
◆◆◆
葬儀の日、卒業を間近に控えた滝は、高等部のワッペンを付けていた。
「ありがとう、みんな」
その言葉を残して滝は卒業していった。 |