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01.絶
「此処は何処なんでしょうか」
頭を掻きながら当たりを見渡した鳳長太郎は、
目の前の学校の机の上に足を立てて座っている宍戸亮に話しかけた。
そこはまるで、数年前まで氷帝に建っていた旧校舎の様だった。
鳳は幼い頃に、父親の母校である氷帝学園の旧校舎を訪ねた事があった。
崩されると知らされた鳳の父親は、記念にと写真を撮って今でも自宅の
リビングに飾ってある。
「長太郎、落ち着け。
監督の言っていた合宿って言うのは、ここでやるのかも知れない。
負けた俺たちへの罰として、古い所で合宿って事なんじゃないのか?」
宍戸が隣の椅子にきちんと座っている鳳の頭をポンポンと二回軽く叩くと
鳳の強張っていた顔の筋肉が少し解れた様に感じた。
宍戸が右隣に座っている忍足侑士と向日岳人を見ると、
二人も同じ様なやりとりをしていた。
いつも、部長の跡部景吾が所有している軽井沢にある豪華な別荘で練習していた
氷帝学園中等部硬式テニス部部員にとってみれば、普通の合宿所も
雰囲気の悪いボロボロの旧校舎に見えるだろう。
「宍戸、お前は監督の『お前たちには、本能的な危機感を感じて本来の力を
出す必要がある』とはどう言う意味だと思う?」
宍戸の目の前にやってきた跡部は、そう呟くと宍戸の後ろの席に座った。
ここにいる部員はレギュラーの7人と準レギュラーの日吉若を入れた8人だけである。
日吉若と鳳長太郎、樺地崇弘の3人は2年生の所為か、部の先輩と同じ教室で机に
向かっている事自体が不思議に思えていた。
机は前の方にある、二列以外は誰も座ってはいないが、廊下側は誰も座っていない。
クーラーを完備していない教室では、汗を全員が流していた。
氷帝学園ではクーラーを完備しているのが当たり前だったが、夏休みの暑い期間は
基本的に教室には出入りしない。
出入りする人間は生徒会長である跡部くらいだろう。
「それは多分、俺たちに『お坊ちゃま気取りを捨てろ』って事だな。
そうじゃなきゃ、こんな暑っ苦しい場所に閉じ込めたりしないだろうし」
「それだと良いがな。
ちょっと引っかかっている事があるんだが、ここで話す様な事じゃない。
合宿が終わってから、お前らには話してやるよ」
跡部は何かに気が付いたのだろう、宍戸に話す事をやめて、向日の後ろの席で
寝息をたてている芥川慈郎へと視線を向けた。
いつも眠っている事が多いが、こんなに暑い中で平然と眠っていられる事は
跡部たちには不思議でならないだろう。
向日も後ろと時より振り向き、芥川の神を引っ張ったりしている。
「ジロー、そろそろ起きないと監督が帰ってくるぜ」
「向日、監督はいつ頃、出て行ったんだ?」
「それなら、30分前くらいやで?
何でも携帯で話しながら、教室出て行ってしもうてな。
その後、『30分後には戻ってくるから、大人しくしているように』って
言って、そのままや」
忍足の話を聞いて、跡部は机に俯き考え事を始めた。
それを見た忍足はやれやれといった表情で前の教壇に目をやった。
時計の針が10時45分を指すと、急に前の教室のドアが開いた。
「監督、やっと帰ってきたんですか?」
忍足の目に映ったのは氷帝学園のテニス部顧問の榊太郎ではなかった。
見慣れない軍服を着て、ライフルを抱えている男が数人で教壇に立った。
数人は護衛なのか、テレビなどでよく見る戦闘用の軍服を着用している。
しかし、真ん中に仁王立ちしている男3人は、上官なのだろうか、戦闘服ではない
軍服を着用していた。
「・・・・・・・誰だ・・・・アンタたち」
日吉がそう呟くと真ん中に立っている男は咳払いを一度してから、
教壇に両手を付いて話を始めた。
「私は今日、君たちの指揮を取る事になった者だ。
君たちに名前を名乗る意味はないので、名前は名乗らない」
「名前を名乗らない指揮官?
俺たちは監督を待っていたんですけどね・・・・」
跡部は挑発する様な声と顔で、真ん中の男を睨んだ。
まるで何もかもを知っているかの様に。
「では、私の役割、君たちにしてもらう事をお話しましょう。
私は二度、同じ事は言いません、決して聞き返さないでくださいね」
冷たい表現をする男の言葉に全員が押し黙ってしまった。
いつもなら監督が話している時でも、騒いでいる向日も、
眠ってしまっている芥川も今の緊張感に気が付いたのか、大人しく席に着いている。
「私は政府の者です。
これだけ聞けば、感の良い生徒なら気が付いているはずですね。
得に跡部くんは、私が来る前から気が付いていたと私は思っています。
榊先生はポーカーフェイスに見えて隠し事が苦手ですのでね」
大きく開いている窓から、気持ち良い風が入って来た。
しかし、それを感じる暇もないのか、誰も何も言わなかった。
「私は苦手なんです。
人を殺す事も、人を脅す事も・・・・本当はね。
しかし、私もコレが仕事なんです」
「用件は早くお願いしますね。
俺たちは気が短いんですよ・・・・」
政府の男は自分の腰に着けていたナイフを取り出した。
歯の先がギザギザと尖っている、普通のサバイバルナイフだ。
「今から、殺し合いをしてもらいます」
そう発言すると同時に、男はナイフを教壇に思いっきり刺した。
教壇は大きな音を起ててから、静める様にナイフを自分の体に受け入れた。
「・・・・バトルロワイヤルか・・・・。
監督が俺に言った言葉の意味が今、分かった。
俺たちを誘き出させたのはアンタだったのか」
跡部は机から立ち上がると教壇の前へと向かった。
「榊先生は我々の命令に従ったがまでだよ。
政府に逆らえる者などいないと君も知っているだろう。
君は跡部財閥の一人息子なのだからね」
教壇に刺されたサバイバルナイフを手にした跡部は、思いっきり
それを引き抜いた。
「これは脅しですか?
政府の高官は非力な馬鹿がやるものだと、俺は祖父に教わりましたが。
まさか、本当に非力な馬鹿だったとはね」
「高官に対する侮辱の言葉を撤回しなさい、跡部景吾」
政府の男の周りにいた護衛の数名が一斉に、跡部に銃を向けた。
それを見ていた忍足達も言葉を失った。
「・・・・監督は何処に?」
「榊先生はモニター室で君たちを監視していますよ。
私たちに協力的だったので、特別に政府入りを認めました。
この仕事をしたいと申し出る新人もいないので、榊先生の政府入りは
正直助かりました。」
サバイバルナイフを政府の男に向けた跡部を見て、護衛隊は
引き金に指を掛けた。
「君たち、跡部くんを殺さないで下さいね。
将来、有望な人間なんですよ、彼はね」
政府の男は説明を始めたいと、言うとスクリーンを上から下ろした。
護衛隊は教壇から離れて、廊下側にズラっと並んだ。
真っ白なスクリーンを見つめている目は真剣だった。
「跡部くんも席に座ってくださいね。
僕の授業が始まりますのでね。
皆さんもちゃんと見ていて下さい。
これが最後の授業になるかも知れませんから」
忍足の眼鏡には、真っ赤な死体が映し出された。
その死体は明らかに制服を着用している。
「私の説明を聞くよりも分かり易い教材です。
数年前に撮影された物ですので、比較的に分かり易くなっています。
BR法が可決されてから、数百人の命が奪われています。
それは貴方たちにも例外ではない」
ビデオの内容は淡々としていた。
何故、殺し合いをしなければならないかまで、きっちりと説明をしている。
BR法の歴史は浅い、6年前に可決されてから、ルール変更を何度も繰り返してきた。
その所為か、結果があまりにも毎回違った。
去年のBR法では1クラスの女子だけで時間無制限というルールだった。
そのBRはあまりにも無残な結末を迎えた。
全員が殺し合いをせずに、今現在も生き残った者達が放置されているというのだ。
時間無制限というルールは一度始まってしまってからは、変更は許されず。
今の様な、首輪を爆発させるという提案もなかった為だ。
「BR法のお勉強は終りです」
スクリーンが真っ白に戻ると、教壇の前には8つのデイバッグが用意されていた。
薄緑色の袋の中には、触った事も無い様な武器が入っているのかと思うと
触る事にすら恐怖を感じた。
「今回のルールは時間無制限、武器は銃に限らせてもらっています。
そして、パートナーと一緒に行動してもらいます。
50メートル以上離れると自動的に首に着いている爆発装置が作動します」
政府の男の発言が終わると、護衛隊が全員の机の上にデイバッグを置いた。
全部の武器が銃である事から、不公平はあまり無いと思いながらも、自分の武器が
どの様な物なのか、気にせずに入られなかった。
「パートナーは、ダブルス2組はそのままで、
跡部くんと芥川くん。樺地くんと日吉くんで組んで貰います」
全員が席を立つと、外へ出る様にと命令があった。
8人は教室のドアを潜る時に、一言呟いた。
「絶対に、生き残る」 |