子供達の聖戦

The Prince of Tennis in Battle Royale 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Battle.38 憧れを求めて

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねえちゃん、絶対に帰ってきてね。

 

テニスで勝負して絶対に勝つから。」

 

 

 

俺は笑顔で姉を見送った、大好きな姉だった。

 

誰よりも尊敬していた。

 

姉は16の時に居なくなってしまった。

 

僕はその時11歳、子供でしかも極秘なモノに参加していたんだ。

 

真実を知ったのはつい最近だった。

 

 

 

 

「娘さん、優勝しましたよ。」

 

 

 

 

知らない黒いスーツの男、サングラスを掛けていて

 

とてもセールスマンには見えなかった。

 

 

 

「そうですか、あの子は助かったんですね。」

 

 

母のうれしそうで泣きそうな声を僕は奥の部屋から盗み見ていた。

 

 

「しかし彼女は更生プログラムを拒否しましてね。

 

このままでは外に出す事は出来ないんですよ・・・。」

 

 

姉の言葉が忘れられなかった。

 

 

「必ず帰ってくるからね・・・・。」

 

 

彼女が何故帰ってこないのか、今でも僕には理解出来なかった。

「精一、どうして戦うのかを訪われたら私は答えられないわ。

 

だって・・・私は・・・怖かったから戦ったんだもの。

 

家族の事なんて頭に無かった・・・、頭に無かったの・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸村の姉はモニターに写る幸村の様子を見ていた。

 

 

 

「私は帰れなかった。

 

自分の考えが変わってしまったから・・・。

 

きっと帰っても生活なんてまともに出来なかったわ。

 

人を何人も殺すなんて普通の子には分からないでしょう。」

 

 

 

 

 

 

「精一、貴方はテニスを続けるの?

 

お母さんは関心しないわ、まるであの子みたいじゃない。」

 

 

姉さんは中学で全国制覇をした位の実力の持ち主だった。

 

将来を有望視されていた。

 

 

「そうかな、姉さんが居ないから僕は続けてるんだ。

 

姉さんに敵う様になるくらいまで・・・。」

 

 

俺も1年で全国制覇を果たした。

 

姉が全国を果たした時は家族全員でお祝いした。

 

なのに何で俺の時はこんなにも悲しい雰囲気が流れるんだろうか。

 

姉の様に成りたかっただけなのに。

 

姉は死んだ事にされていた。

 

バス事故で姉のクラスの全員が死んだ事にされたのだ。

 

人の死なんて事故の一言で正当化されてしまう物なのだ。

 

事故ならば誰も疑問視もしない、誰も気にしないから。

 

 

 

 

 

どうしたの、そんな顔して・・・。」

 

 

 

 

 

姉の驚いた顔を久しぶりに見た。

 

そしてその顔自体を何年ぶりに見ただろうか。

 

僕は政府の監視ルームに潜入した、誰にも気付かれない様に。

 

 

 

「精一・・・・。」

 

 

 

殺したい位、憎いワケじゃない。

 

むしろ逢えて嬉しいんだ。

 

大好きで大好きでたまらない姉なのに遠くに感じる。

 

 

 

 

 

「姉さん、俺・・・、全国制覇したよ。

 

誰にも負けなかった、中学に入学してから誰にも一度も。

 

姉さんは帰って来なかったから、俺は夢中で自分のテニスに没頭した。」

 

 

「精一、此処にいたら殺されるわ・・・。」

 

 

姉は俺の右手を握り出口に向かおうとした。

 

 

「姉さん・・・腕・・・・。」

 

 

姉の右腕は無かった。

 

何時も姉は俺の左手を自分の右手で掴んでいたから違和感を覚えた。

 

俺が転んでもいい様にと俺の利き手を空けてくれた姉の優しい右手が無かった。

 

 

 

 

「これね、戦っててダメにしちゃったの・・・。

 

終わった時は付いてたんだけど、使えないから付いてても意味ない

 

と思って・・・取っちゃったの・・・。」

 

 

 

 

 

 

姉の悲しそうな顔が俺を苦しくされた。

 

 

 

 

 

 

「自分で切断したの・・・。」

 

 

 

「何で・・・・。」

 

 

 

「私の生きる希望はもう無かったから・・・。

 

生きる希望の無い人間に生きる資格はないわ。

 

だから帰らなかったの・・・・。」

 

 

幸村は持っていた銃を床に落とした。

 

 

「私には生きる資格なんてない。

 

大好きなテニスができない私なんて要らないのよ。

 

期待されない私なんて要らないのよ・・・・。

 

大好きな家族に迷惑掛ける私なんて要らないの・・・。

 

友達を殺した私なんて・・・。」

 

 

泣き出した姉の顔を俺は見れなかった。

 

 

 

「・・・もしも俺は優勝したら俺と家に帰ろう・・・。

 

絶対に迎えに来るから、帰ろう、姉さん。」

 

 

 

 

俺は出口に向かった、姉の視線を背中に感じながら。