子供達の聖戦

The Prince of Tennis in Battle Royale 〜

 

 

 

Battle.21 頑張るから・・・だから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“君はもうテニスが出来ないかも知れない・・・。”

 

 

 

 

医者に言ったその言葉は幸村をどん底に突き落とした。

 

病名はギランバレー症候群に酷似した免疫系の病気。

 

原因不明の病、故に治る見込みも薄かった。

 

もし治ったとしてもまた何時再発するかという不安を抱えて

 

生きていくしかないのだ。

 

幸村精一が中学2年の冬の事だった。

 

部活が終了してから幸村は部誌を書いていた。

 

までのスコアーやメンバーの状態を詳しく書き綴っていた。

 

 

 

夕焼けが窓から入ってくるのを幸村は一目した。

 

 

 

その時、微かに窓が揺れた気がした。

 

幸村は椅子に座ってはいたがバランスを崩し大きな音と共に倒れた。

 

たまたま残っていた仁王にもその音は聞えてきた。

 

 

 

 

「幸村、どうしたんや?」

 

 

シーンと静まり返った部室には誰も居ない様に見えた。

 

しかしよく机の奥を覗いてみると夕日に照らされた幸村の倒れる姿が見えた。

 

 

「幸村・・・!!しっかりしい、幸村!!!!」

 

 

駆け寄ると幸村はうっすらと瞳を開けたが返事はしなかった。

 

仁王は突然部室を飛び出した。

 

して自分の携帯から柳生に電話を掛けた。

 

 

 

「仁王くんですか、どうしました?

 

宿題なら数学だけですよ。」

 

 

 

「・・・柳生、大変なんや。

 

幸村が、幸村が・・・・倒れよった・・・。」

 

 

 

息が上がり心臓の音がうるさく聞える

 

 

 

「なんですって?

 

仁王くん、救急車は呼びましたか?・・・

 

一刻も早く救急車を呼んでください。

 

僕もそっちに向かいますから。」

 

 

 

仁王は柳生の支持どうりに救急車を呼んだ。

 

救急車が来る間、仁王は幸村の近く行くのを躊躇った。

 

助けを呼ぼうと必死で部室から飛び出したものの、

 

もしも幸村が死んでしまっていたらと不安だったのだ。

 

ドアに手を伸ばそうとも手が震えてしまう。

 

 

 

「仁王!」

 

 

 

コートの方から丸井の声が聞えた。

 

 

 

「なんだよ、血相変えて・・・。

 

ちょっと忘れモンしたからそこ退いてくれよ。」

 

 

 

丸井はドアを開けて自分のロッカーの鍵を開けた。

 

 

 

「ラッキー!来てみてよかったぜ!」

 

 

 

荷物を取り机に乗せようとすると足元に倒れる幸村を発見した。

 

 

 

 

「おい、幸村・・・・。」

 

 

 

肩をゆっくりとゆすったが返事はなかった。

 

 

 

「仁王、救急車!!」

 

 

 

「・・・呼んだ・・・・。」

 

 

 

「なんで側にいてやんねーんだよ!

 

幸村をほっとく気だったのかよ!!」

 

 

 

 

「違うんや、只・・・・。」

 

 

 

 

仁王には救急車の来るまで間がとても長く感じた。

 

病院に運ばれた幸村は酸素マスクをされてICUに運ばれた。

 

柳生がメンバーに電話を回したらしく、立海全員が病院に駆けつけた。

 

廊下の椅子に座り仁王は俯いた。

 

他のメンバーも座ったが丸井は仁王を睨みつけていた。

 

 

 

「おい、仁王・・・。」

 

 

 

柳生は丸井に手で“止めろ”と合図をした。

 

 

 

「丸井くん、少し付き合ってくれますか?」

 

 

 

2人はそこから離れた。

 

 

 

『何でや、何で俺・・・動転しとったんか?

 

俺らしくもないな・・・。』

 

 

 

 

仁王は誰にも気付かれない様に涙を流した。

 

 

 

「丸井くん、お願いですから仁王くんを責めないでください。

 

貴方の気持ちも分かりますが、仁王くんは・・・・。」

 

 

「病人ほっといたアイツを責めるなって言うのかよ!!」

 

 

「此処は病院です、少し静かにしてください。」

 

 

 

 

売店の近くの椅子に二人は腰掛けた。

 

 

 

「仁王くん、昔、おばあちゃんが死んでるんです。

 

仁王くんの目の前で・・・・。

 

老衰だったらしいのですが、どうもそれがトラウマになってるらしくって。

 

あまり病人とか死とか得意じゃないんですよ。

 

幼かった彼にはショックだったでしょうね、大切な人が自分が側にいながら

 

死んでしまうなんて。」

 

 

 

丸井は俯いたまま、舌打ちをした。

 

 

 

「でも救急車を呼ぶだけでも彼にしてみれば重大な事ですよ。

 

彼は助けたいと言う気持ちで私に電話してきたんです。

 

パニックになりながらも・・・懸命に・・・。」

 

 

 

3日後、幸村は面会を許された。

 

 

 

「みんな、来てくれたんだ・・・。」

 

 

 

少し浮かない顔をしながらも幸村は続けた。

 

 

 

「今年の選抜は出られないかもしれない。

 

それにジュニア選抜も・・・。」

 

 

 

 

 

“もうテニスは出来ないかもしれない・・・。”

 

 

 

 

 

幸村は少しだけ微笑んで見せた。

 

不安だった、もうラケットを握れないかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと、やっと・・・ラケット、握れたのに・・・。

 

まだ俺の邪魔するのかい、仁王。」

 

 

「真田を殺したのはお前か?幸村。」

 

 

「そうだよ、俺の邪魔するから殺してやったんだ。」

 

 

「やっとテニス出来る様に成って、こんな事に巻き込めれた

 

お前の気持ちはよく分かるわ・・・。」

 

 

「仁王はモノ分かりが良いね、俺の為に死んでくれるんだろう?」

 

 

 

仁王は自分の眉間に銃を突きつけた。

 

 

 

「・・・これで満足か?」

 

 

 

大きな銃声が鳴り響いた。

 

 

 

「・・・仁王?」

 

 

 

 

 

“少しだけ罪悪感が芽生えた・・・。”

 

 

 

“俺頑張るから・・・だから・・・・”

 

 

 

“だから・・・俺を許してくれ・・・・”

 

 

 

 

 

溢れ出る涙が止まらなかった・・・・・・

 

きっとこれが最後の涙だ、きっともう泣けない、一生。

 

これで最後だ・・・きっと、最後だ・・・・。