子供達の聖戦

The Prince of Tennis in Battle Royale 〜

 

 

 

 

Battle.16 Insomnia

 

 

 

 

 

12時15分、雨が降ってきた。

 

 

「最悪だね、こんな時に。」

 

 

越前リョーマは廃倉庫と思われる場所で雨宿りをしていた。

 

辺りは暗く、そして雨の地に落ちる音しか聞えてこない。

 

 

 

「でも、手塚部長・・・死んじゃったんだ。

 

俺のこと刺しといて死ぬなんて・・・。

 

でも部長らしいね、俺に勝っといて負けたんだからさ。

 

それにしても、傷が痛むな、そろそろここも禁止区域になるし。

 

俺って本当についてないね・・・。」

 

 

 

 

『もう、寒くて、痛くて動けない・・・・。

 

声すら出ないし、眠れない・・・・。』

 

 

 

 

風が強くなってきた。

 

ざわざわと木の揺れる音が遠くで聞える。

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚先輩・・・・。」

 

 

桜乃は小さな声で呟いた。

 

 

「私が逃げなかったら、死ななかったかもしれない。」

 

 

 

桜乃もリョーマと同じ倉庫にいた。

 

リョーマとは丁度反対側の場所に。

 

 

 

「杏さんは何で私を助けてくれたんだろう。」

 

 

 

声が木霊している。

 

倉庫の中には食料と思われる袋がたくさん並んでいる。

 

 

 

『・・・誰かいるのか・・・。』

 

 

 

リョーマは凭れ掛かっていた壁から体を離した。

 

そして金鎚を持ち壁伝いに歩き始めた。

 

風の音が反対の方から聞えてくる。

 

何処かに穴、もしくはドアが開いているのだろう。

 

 

 

 

 

 

「だれだ!」

 

 

 

 

リョーマの声に桜乃が振り返った。

 

 

 

「・・・リョ、リョーマくん・・・・。」

 

 

桜乃の顔は恐怖から喜びに変わった。

 

 

 

「竜崎・・・。」

 

 

 

2人は身を寄せ合った。

 

夏の夜とはいえ雨の中では薄着では寒すぎた。

 

 

 

「竜崎。ここ、後10分くらいで禁止区域になるよ。

 

急がないと、首から上吹っ飛ぶよ。」

 

 

 

 

冷めた声に桜乃は問う。

 

 

 

 

「リョーマくんは行かないの?」

 

 

 

「こんな体じゃ、逃げても雨の中で死ぬだけだしね。」

 

木霊する声は2人の声の小ささでも目立った。

 

 

 

「・・・まだ血が止まってないの?」

 

 

リョーマの下腹部からは足に滴るくらいに血が溢れていた。

 

 

 

「・・・ねぇ竜崎、どうして部長が死んだの?」

 

 

 

「それは杏さんにボーガンで打たれて・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「桜乃ちゃん、これ手塚さんが持ってたわ。

 

貴女のでしょう?」

 

 

杏はデイバッグを桜乃に渡した。

 

 

「・・・どうして・・・。」

 

 

「分からないわ、でも今度逢う時はお互い敵同士よ。」

 

 

優しい笑顔とは裏腹な言葉に桜乃は息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「追いかけられてる時に杏さんに打たれたの・・・。

 

でも手塚先輩は私の身を案じてくれてたみたいだった。」

 

 

 

リョーマは天井を見上げて言う。

 

 

 

「部長は俺が攻撃したから刺したんだよ。

 

いわゆる正当防衛ってやつだね。」

 

 

 

桜乃はリョーマの顔を擬した。

 

 

 

「えっ・・・どういう事?」

 

 

震える体を抑えながら桜乃はリョーマを見つめた。

 

 

 

「つまりは竜崎の勘違い、竜崎の勘違い。

 

行きなよ、こんな奴の側に居ても意味ないよ。

 

それとも竜崎はもうここで怖気付いちゃった?」

 

 

 

 

桜乃は雨でかき消される位の声で言った。

 

 

 

 

「私のせいで・・・手塚先輩が死んじゃった・・・。」

 

 

 

 

「竜崎行け、ここから離れろ。」

 

 

リョーマの声が聞えないのか桜乃は俯いたままだった。

 

 

 

 

「行け、竜崎。

 

ここで死ぬつもりなのか?」

 

 

 

リョーマの声に桜乃は立ち上がり言う。

 

 

 

 

「私、リョーマくんの事ずっと憧れてた。

 

ただそれだけだよ、ただそれだけ・・・・。」

 

 

 

 

「俺はここで死ぬ、そしたらまたここに戻ってきてくれる?

 

俺に花でも手向けてよ。

 

そしたらアンタのこと、地獄でも覚えてるかも知れないから。

 

竜崎、最後の願い敵えてよ。

 

ふっ、でも人殺した人間が死ぬのが怖いなんて皮肉だよね。

 

約束してよ、ここに戻って来るって。」

 

 

 

 

「リョーマくん、約束する。」

 

 

 

 

「行け、竜崎。

 

後5分しかない。

 

ここから道を辿っていけば確実に禁止区域から出られるはずだから。」

 

 

 

「ありかとう・・・リョーマくん。」

 

 

桜乃は雨の中を走りだした。

 

 

 

「結局、俺はここで死ぬ運命なんだな。

 

でも最後を見届けてくれる、俺を思ってくれる人がいるってだけで

 

幸せなのかも知れないね。

 

人殺しにしては幸せな死に方だよ。

 

テニス、出来なかったな。

 

もし優勝してもこの体じゃテニスできないけど・・・。

 

もう左手に感覚ないもんな、なんて運命なんだろう。」

 

 

 

 

『どうか、彼女の今後が悲惨ではない様に

 

俺はここから祈ることしか出来ない。

 

俺のことを思ってくれる彼女が幸せでありますように。』

 

 

 

 

 

「あと、1分か。」

 

 

リョーマは自分の腕を見つめた。

 

上がらない左手に着けた時計の秒針は後1週で自分の死を意味していた。

 

 

 

「結局眠れなかった、こんなに眠いのに。

 

人生に未練があり過ぎるのかな。」

 

 

 

『目を閉じれば何も感じずに死ねるのにね。

 

俺ってバカだな、死ぬまで起きてるなんて、本当に。』

 

 

 

大きな音が桜乃の耳に届いた。

 

 

 

 

「リョーマくん・・・・。」