子供達の聖戦

The Prince of Tennis in Battle Royale 〜

 

 

 

 

Battle.14 思い出が私の邪魔をする

 

 

 

 

 

 

 

心が壊れそうになっている。

 

アンナ、皆ノ顔・・・始メテ見タ・・・。

 

裏切り?裏切ったのは彼の方だ。

 

 

 

 

『私は何で皆の中に入れないんだろう。』

 

 

 

 

「橘さんって何かねぇ・・・。」

 

 

 

 

兄は全国でも有名なテニスプレイヤーで少し怖い印象があった。

 

でも私には自慢の兄だったし、凄く大好きだった。

 

 

 

 

「お兄ちゃん・・・。」

 

 

 

 

何となくクラスの人から避けられてる事は前々から気付いていた。

 

田舎だし近所の評判も兄のプレイスタイルの所為で少し悪かったから。

 

 

 

 

 

「何だ?杏。」

 

 

 

 

私はお兄ちゃんと過ごす日が多かった。

 

女子テニス部には入っていたけど、皆私を避けていたから。

 

 

 

 

「私ね、テニス部止めようかと思って・・・。

 

ウチの女子のレベルじゃ大会も初戦敗退確実だし、

 

勉強も遅れて来ちゃったし・・・。」

 

 

 

 

勉強が遅れているというのは嘘だ、友人もまともにいないせいも

 

あって暇な時間が多かったから勉強に精をだしていたから

 

上から数えたほうが早かった。

 

 

 

 

「そうか、でもテニスはどうするつもりだ?

 

ウチにはクラブに通うほど余裕はないぞ。」

 

 

 

 

「公園でやればいいよ、その時はお兄ちゃんも千歳くんも

 

一緒にやってくれるでしょ?」

 

 

 

 

「お前がそうしたいなら構わないが・・・。」

 

 

 

 

兄は強い、少し暴力的なテニスをするけど誰よりも強い。

 

来年は全国制覇、王者立海にも勝てると確信していた。

 

 

 

 

「・・・橘さん、部止めるの?

 

残念ね、私たち橘さんの戦力にすごく期待してたのに。」

 

 

 

 

その言葉は嘘偽りだらけで吐き気がした。

 

でもこれで私は自由になれる気がしてた。

 

 

 

 

 

『橘さん、部止めるんだって。』

 

 

 

『えっ!本当』

 

 

 

『よかった、彼女いると場が何かね・・・。』

 

 

 

 

更衣室の脇を通るとクラスの人の声が聞えてきた。

 

でも、私は気にしない、気にしないふりをしているの。

 

だってそれが正しい答えだから。

 

 

 

 

私・・・テニス大好きだから嫌な雰囲気ではプレーしたくないの。」

 

 

 

 

笑顔で言った、自分に言い聞かせる様に言った。

 

でも涙が溢れた、中学に入ったら一番にテニス部に入るって決めてた。

 

全国大会に男女そろって出るのが目標だった、兄たちと一緒に行きたかった。

 

弱小な女子部を私が変えてやろうと思っていた。

 

でも現実は違った、私は何で中に入れないんだろう・・・。

 

 

 

 

暫くして兄が対戦相手に怪我を負わしてしまったらしい。

 

ラフプレイは兄のプレイスタイルだから何れこうなるとは思っていた。

 

近所でも何かと騒がれて母の体調が悪化した。

 

父はここでは暮らせないと東京に出張願いを出した。

 

私たちは父の仕事の都合という事で転校することになった。

 

 

 

 

「橘さん、あのね、これ東京に行っても頑張って。」

 

 

 

テニス部の子がテニスボールを渡してくれた。

 

 

 

「・・・どうして・・・。」

 

 

 

「私、知ってたの。

 

部活の先輩たちが橘さんの噂してるの。

 

橘さん、男子の先輩たちと仲がいいでしょ、それにテニス強いし。

 

先輩、橘千歳先輩のこと好きみたいだったから・・・。

 

それで無視しようって話になって・・・。」

 

 

 

「なんで今更そんな事言うの?

 

私、そんな事のためにテニス部止めたの」

 

 

 

「ごめんなさい、でも許して欲しいとも言わない。

 

でも・・・橘さんにはテニスを好きでいて欲しいの。

 

だからこのボール。

 

このボール、先輩に捨てろって命令されたの。

 

でも捨てられなかった、だって橘さん誰よりも練習してたから。」

 

 

 

彼女には怒る気力すら起きなかった。

 

ただ呆れるしかなかった。

 

そんな下らない事のために私はテニスをする環境をなくした。

 

 

 

 

「そんな奇麗事言わないでよ。」

 

 

 

それが彼女に返した言葉だった。

 

ボールは受け取らなかった。

 

だってテニスの嫌な思い出を引きずりたくないから。

 

 

 

 

 

 

転校して初めての日、1年の5月の中途半端な時期に

 

初めて来る生徒にみんな注目していた。

 

 

 

「なぁ、転校生、可愛いこだといいよな。」

 

 

 

「アキラってそんな事ばっか考えてるから・・・。」

 

 

 

「橘杏です、よろしくお願いします。」

 

 

必死に明るく挨拶をした、前の様にならない様に。

 

 

 

「可愛いなぁ?ねぇアキラ・・・。」

 

 

 

「あぁあ・・・。」

 

 

 

此処のテニス部は荒れていたが

 

公立の学校で硬式テニスがある事に私は驚いた。

 

ここでも嫌な上下関係があるのね、そう思いながら私は席に着いた。

 

 

 

「俺、神尾アキラって言うんだ。よっよろしく。

 

それで、後ろのが伊武深司。」

 

 

 

運悪く、私はテニス部員と思われる男子の隣の席になった。

 

 

 

「神尾くんに伊武くんね、よろしく。」

 

 

今までに誰にも見せた事の無い様な笑顔を見せた。

 

 

それが私に出来る精一杯の笑顔だった。

 

 

 

 

神尾くんと伊武くんはテニス部なの?」

 

 

 

少し気が引けたけどやっぱり聞いてしまった。

 

彼等は日々行われている不平不満を口にした。

 

なんか私と似ていた。

 

女子と男子で少し違っただけで何か似ていた。

 

 

 

 

 

 

暫くして、兄がテニス部に向かった。

 

やっぱり兄はテニスを捨てられなかったみたいだ。

 

 

 

「杏、校内暴力で大会出場禁止になっちまった。

 

でもこれからはイチからテニス部を作り直すつもりだ。」

 

 

 

兄はラフプレイをしなくなっていた。

 

母の事が祟ったのだろう。

 

でも兄は十分に強かった。

 

テニス部は新しく成って私にも居場所が出来た。

 

彼等は仲間だ、あの場所とは違い此処は仲間がいる。

 

 

 

 

 

 

 

でもどうして?全国に行けるはずだったのに・・・

 

どうして?どうして、みんな動かないの?

 

もう夜だよ。もう夜なの・・・家に帰ろうよ、お兄ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏ちゃ〜ん、よかった杏ちゃんが無事で。

 

ご飯も用意してあるから、あの小屋に行こう。」

 

 

 

杏の袖を神尾が引っ張った。

 

 

 

「杏ちゃん、どうしたの、怪我してるの。」

 

 

「モモシロくん、殺されちゃったの・・・。」

 

 

 

く杏に神尾は何もすることが出来なかった。

 

 

 

「どうして、殺されちゃったのかな・・・。」

 

 

「杏ちゃん、小屋に行こう。

 

ここだと危ないから・・・・。」

 

 

 

杏と2人で小屋に向かった。

 

 

仲間は杏を心良く迎えてくれた。

 

 

 

 

 

「杏、待っていたぞ。」

 

 

「これでメンバー全員そろいましたね。」

 

 

「そう、みんな生きててよかった・・・。」

 

 

 

杏の声にみんなは笑った。

 

 

 

 

「みんなで帰ろう、此処を脱出して。」

 

 

 

『何でみんなを信じるの?

 

仲間は仲間を裏切るんだよ?杏。』

 

 

 

 

 

 

大きな爆発音がした、小屋が一瞬で吹っ飛ぶ様な大きな騒音が。

 

 

 

 

 

「・・・全員死んだか?」

 

 

微かに男の声が瓦礫の下敷きになっている杏に届いた。

 

 

 

 

「生きてたら、そいつバケモノでしょ。」

 

 

 

「そうやな、バケモノやな。

 

でも万が一って事もあるし火でも着けとこかな?」

 

 

 

 

杏の体が熱くなった、男たちは本当に火を放ったらしい。

 

 

 

 

「でも夜だし、丁度火を使えてラッキーだったな。」

 

 

 

「そうやね、でも死体の焼ける臭いは少し簡便してもらいたいわ。」

 

 

 

 

 

 

『私は逝きたいの?生きたいの?』

 

 

 

『生きたらいいわ、それを貴女が望むなら。』

 

 

杏は這い蹲ってその場を離れた。

 

 

 

 

森の中で瓦礫の山を見つめた。

 

 

 

 

「お兄ちゃん・・・。」

 

 

火は大きな音を立てながら夕焼けの空を燃やしていた。

 

 

 

「お母さん、ごめんなさい。

 

お兄ちゃんの体、燃やされちゃった・・・、ごめんなさい。」

 

 

 

 

 

杏の目に仲間の顔が見えた。

 

 

 

 

「何でそんな顔するの?

 

私だけが生き残ったから?ねぇ・・・どうして・・・・。」

 

 

 

 

 

 

『仲間なんて皆裏切るのよ、だから彼等も貴女を睨んでるの。

 

杏、戦いなさい。自分の為に、そして生きなさい。』

 

 

 

 

 

「化けてでてくんなよ、これは戦争なんだからな。」